越える業種の壁、トライアルが目指す流通革命とパナソニックが目指す工場外自動化:第4次産業革命の現在地(4/4 ページ)
人手不足に悩む流通業界だが、改革を実現するには何が必要だろうか。トライアルカンパニーは、ITとオートメーションの活用に活路を求めた。トライアルカンパニーがパナソニックと組んで取り組む、流通改革の現場を追う。
「工場外のオートメーション化」に取り組むパナソニック
さて、これらの実証をそれぞれ支援し、関連する機器やデバイスを共同開発しているのがパナソニック コネクティッドソリューションズ社(CNS社)である。
パナソニック CNS社は、もともとパナソニックの社内カンパニーであるAVCネットワークス社を母体とし、ストレージ事業部、ビジュアルシステム事業部、ITプロダクツ事業部、セキュリティシステム事業部、コミュニケーションプロダクツ事業部、オフィスプロダクツ事業部、パナソニック アビオニクス、パナソニック システムソリューションズ ジャパン(PSSJ)、プロセスオートメーション事業部(旧スマートファクトリーソリューション事業部)など多岐にわたる事業を抱える。これらの多彩な事業や技術、顧客を「つないでいく」ことで強みを発揮するという考えの下、取り組みを進めている。
これらの取り組みの1つに「オートメーションの拡大」がある。パナソニックではB2CからB2Bまで、さまざまな製品群を展開しており、メカトロニクス技術や精密加工技術、AIやIoTに関する技術、画像処理技術、センシング技術、通信技術など、多岐にわたるハードウェア開発技術を保有している。こうしたハードウェア開発の技術力や知見に加えて、プロセスオートメーション事業部などで、実装機などの産業機械や工場向けのソリューションなどオートメーションに関連するノウハウなども保有し、これらを組み合わせることで、工場外のさまざまな領域のオートメーション化や省人化などを推進していくというものだ。
パナソニック 執行役員 コネクティッドソリューションズ社 副社長の青田広幸氏は「そもそも製品展開を進めてきた工場などでも、個々の装置や製品だけではなく、生産性全体を改善してほしいという声が高まっており、全体最適につながるソリューション展開などを進めようとしているところだ。ただ、こうした取り組みは工場内だけにとどまるものではない。製造業の困りごとを物流業や小売り業にも展開できる」と工場外へのオートメーションの展開に意欲を示す。
例えば、トライアルカンパニーと共同開発したウォークスルー型RFID会計ソリューションで使用する会計レーンは、パナソニックのハードウェア技術によって実現した。実現に向けては2016年12月からコンビニエンスストア大手のローソンと共同で実証を進めた完全自動セルフレジ機「レジロボ」などのノウハウを活用※)。
※)関連記事:レジ作業時間を短縮する完全自動セルフレジ機の実証実験を開始
ただ、ウォークスルー型を実現するのにはさまざまな苦労があったという。パナソニック スマートファクトリーソリューションズ 小売り・物流システムSBU カスタマーソリューション部 小売業界担当部長の丸山貴司氏は「5秒以内で読み取るというスピードを実現することも難しさはあったが、最も難しいのはRFIDシールを貼った商品が周辺に存在する中で、間違いなく会計レーンを通ったものだけを読み取るという点。周辺のRFIDタグも読み取ってしまう中で、正しいものだけをどう選別するかというところにノウハウがある」と述べている。
「モノの流れ」全体を最適化する
パナソニックではこれらの小売りや物流環境において、ハードウェアや個々のシステムとしての効率化を目指すだけでなく、生産から物流、販売、使用まで製品のライフサイクル全域におけるサプライチェーンの全体的な最適化などにも取り組む方針。RFIDの活用についても、こうした製品ライフサイクル全域のトレーサビリティーにつながることから推進している背景がある。
青田氏は「製造業としてのサプライチェーンでは、分断された情報をつないで、全体で効率化しようという動きが進んでいる。こうした動きを業界を超えて実現することでより広いサプライチェーンの構築が可能となる。製造から小売りまでを一気通貫で管理する次世代サプライチェーンの実現を目指す」と取り組みについて述べている。
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