アディダスが選んだ量産型3Dプリンタ、日本で本格展開を開始:3Dプリンタニュース
米国の3DプリンタベンチャーのCarbonは「3D Printing 2018」に出展。引き上げ式の光硬化樹脂型の新方式3Dプリンティング技術「CLIP」を採用した「M2 Printer」の実機を披露し、日本で本格展開する姿勢を示した。【訂正あり】
米国の3DプリンタベンチャーのCarbonは「3D Printing 2018」(2018年2月14〜16日、東京ビッグサイト)に出展。引き上げ式の光硬化樹脂型の新方式3Dプリンティング技術「CLIP」を採用した3Dプリンタ「M2 Printer」の実機を披露し、日本で本格展開する姿勢を示した。
3Dプリントシューズを大量に生産
Carbonは、3Dプリンタ本体や3Dプリンタで用いる材料の開発や製造、販売を手掛けるベンチャー企業で2013年の創業。創業者らは高分子化学の研究者で、独自の造形技術「CLIP(Continuous Liquid Interface Production)」を活用したプロセス「DLS (Digital Light Synthesis)」を開発した。この技術を採用した3Dプリンタ「M1」と「M2」の2機種を開発し、米国では2016年から販売を開始している。
2017年4月には同技術を使って生産したソールをドイツのスポーツメーカーアディダスが採用。3Dプリントシューズ「Futurecraft 4D」を2018年末までに10万足作ることを発表し大きな注目を集めている。
こうした動きを受け、日本でも本格的に2017年7月に日本法人を立てて展開を開始した。日本法人はCarbonが100%出資し、活動を進めている。JSR プロジェクトSeville 主査の銅木克次氏は「2台のデモ機を用意して提案を進めているが、既に数多くの引き合いが来ている。用途としては非常に多岐にわたる。もともと量産を想定した積層造形技術だが、現状では試作関係での問い合わせが多い」と述べている。
「強い、早い、きれい」という3つの特徴
CLIPは光と酸素のバランスを保ちながら素早く部品を生産する光化学プロセスである。酸素透過性の窓を通して、光をUV硬化樹脂に照射することにより固め、プラットフォームを徐々に引き上げていく形で成形していくという仕組みである。酸素濃度が高くなると樹脂が硬化せずにくっつかないという特性を生かし、ワークの底部分が浮いた状況で硬化できるため、一層一層を順番に積み重ねる積層方式ではなく、連続して積層できる。そのため、従来よりも短時間で成形できるという点が特徴だ。
さらに、熱活性化素材を材料に組み込み、UV硬化後に高温で焼き、2次的な化学反応を引き起こすことで強度などを実現する。これによりエンジニアリンググレードの機械的性質を持つ製品を造形できるという。
銅木氏は「強い、早い、きれい、というのが最大の特徴だ。従来の3Dプリント技術とは全く異なるアプローチで、異なる用途が開拓できる。『Futurecraft 4D』のソールは1足(左右ペア)を30分で造形できている」と強みについて述べている。
この考えのもとに、国内で展開する「M2 Printer」も大量生産を視野に提案を進めていく考えである。「M2 Printer」は売り切りの販売ではなく、1台当たり年間725万円のサブスクリプションモデルで展開する。さらにこの金額には材料費は含まれていないという。銅木氏は「試作向けでは費用対効果の面で難しい価格設定としている。最終製品の生産用途での活用を目指している」と述べている。
当面はこの「量産」での国内での導入例を作るのが目標となるが「既にめどは立ちつつある。量産での採用も早い段階で発表できるだろう」と銅木氏は自信を見せていた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- アディダスも採用を決めた量産型3Dプリンティング技術、日本で披露
米国の3DプリンタベンチャーのCarbonは「第28回 設計・製造ソリューション展(DMS2017)」に出展。引き上げ式の光硬化樹脂型の新方式3Dプリンティング技術「CLIP」によるサンプルなどを紹介した。 - 「開発期間3分の1」「年産100万足」、アディダスが選んだ3Dプリンタとは
アディダスが発売するユニークな高性能ランニングシューズ「Futurecraft 4D」は、開発段階だけでなく量産にも3Dプリンタを活用する。年産100万足を支える3Dプリンタ技術について、開発したベンチャー企業に聞いた。 - いまさら聞けない 3Dプリンタ入門
「3Dプリンタ」とは何ですか? と人にたずねられたとき、あなたは正しく説明できますか。本稿では、今話題の3Dプリンタについて、誕生の歴史から、種類や方式、取り巻く環境、将来性などを分かりやすく解説します。 - 1000万色フルカラー3Dプリンタがついに発売へ、印刷業界で培った色表現に優位性
ミマキエンジニアリングがUV硬化インクジェット方式3Dプリンタ「3DUJ-P(仮)」を2017年内に発売する。広告や看板などに用いられる2Dの産業用プリンタで培った技術を基に、3Dプリンタでありながら1000万色以上のフルカラー造形を実現した。本体価格は1500万〜2000万円を想定している。 - 3Dプリンタ“ブーム”は終えんも、製造業の活用は着実に拡大へ
IDC Japanは、国内3Dプリンティング市場の2013〜2015年の実績と2020年までの予測を発表した。一般消費者向けのデスクトップ3Dプリンタ市場は、ブームの終えんによって縮小したものの、企業ユーザー向けのプロフェッショナル3Dプリンタ市場と付随する関連サービスと3次元造形材料の市場は今後も着実に拡大するという。 - 「単なる試作機器や製造設備で終わらせないためには?」――今、求められる3Dプリンタの真価と進化
作られるモノ(対象)のイメージを変えないまま、従来通り、試作機器や製造設備として使っているだけでは、3Dプリンタの可能性はこれ以上広がらない。特に“カタチ”のプリントだけでなく、ITとも連動する“機能”のプリントへ歩みを進めなければ先はない。3Dプリンタブームが落ち着きを見せ、一般消費者も過度な期待から冷静な目で今後の動向を見守っている。こうした現状の中、慶應義塾大学 環境情報学部 准教授の田中浩也氏は、3Dプリンタ/3Dデータの新たな利活用に向けた、次なる取り組みを着々と始めている。