「開発期間3分の1」「年産100万足」、アディダスが選んだ3Dプリンタとは:3Dプリンタ インタビュー(1/2 ページ)
アディダスが発売するユニークな高性能ランニングシューズ「Futurecraft 4D」は、開発段階だけでなく量産にも3Dプリンタを活用する。年産100万足を支える3Dプリンタ技術について、開発したベンチャー企業に聞いた。
2017年秋から、アディダスはユニークなソールを持った高性能ランニングシューズ「Futurecraft 4D」を発売する。17年間蓄積したランニングに関するデータを基に開発した、動作やクッション性、安定性や快適性などアスリートの要求を満たす複雑なメッシュ構造のソールを採用した。
従来は新製品の開発に18カ月かかっていたが、Futurecraft 4Dは開発を6カ月で終えた。さらに、デザインの改良も従来以上に実施した。
開発期間の短縮と、複雑なメッシュ構造のソールの造形を実現したのは3Dプリンタだった。金型の製作が不要で、テストや実証を繰り返しやすいことが貢献した。アディダスはソールの量産にも3Dプリンタを利用する。既に1万足の量産に向けて3Dプリンタが稼働しており、2018年には10万足以上、2019年にはさらに生産スピードを上げて100万足以上を3Dプリンタで量産する計画だ。
アディダスが採用した3Dプリンタの開発元であるベンチャー企業Carbon(カーボン) バイスプレジデントのLuke Kelly氏に「Oracle Modern Business Experience 2017」(2017年7月26日)の会場でインタビューし、同社の3Dプリンタ技術の特徴について聞いた。
化学の先生が考案した3Dプリンタ
カーボンの3Dプリンタは、「DLS (Digital Light Synthesis)」という独自のプロセスを採用している。液状の樹脂を紫外線(UV)によって硬化させながら立体的に連続して造形するもので、射出成形のように均質な出力となる。さらに熱硬化を加えることでより高い物性を確保する。
出力に対応した樹脂は20種類あり、プラットフォーム次第では何百もの素材を使うことが可能だという。材料を変えることでスピード造形や、耐衝撃性、弾力性、200度以上の耐熱性、透明度などさまざまな要求を実現する。
カーボンは2013年の創業だ。同社のCEOで創業者のJoseph M. DeSimone氏はノースカロライナ州立大学の化学の教授だ。「3Dプリンタで何かやってみたい」と学生に相談され、機械工学ではなく化学からのアプローチで、造形時間の短縮や強度の向上、材料の多様化などに取り組もうと研究を始めた。
DeSimone氏はまず、従来の積層造形の3Dプリンタでは使うのが難しかった材料「テフロンAF」に着目した。酸素に触れると時間が経つにつれて固体化するが、酸素との接触をコントロールすることにより、3Dプリンタでの利用を可能にした。成形のスピードは1時間当たり100〜200mmだ。
Kelly氏は材料技術だけでなく、3Dプリンタで出力する時の化学反応を制御するソフトウェアも重要だと説明した。一定の条件で安定して化学反応を起こすことにより、大量生産に適した品質と50μm単位での造形精度を確保できるようにした。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.