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工場IoTは既に実益が得られる手段、カギを握る「目的」と「協創」MONOist IoT Forum 大阪(前編)(2/2 ページ)

MONOistを含むITmediaの産業向け5メディアは、セミナー「MONOist IoT Forum in 大阪」を開催した。三菱電機、ダイキン工業、IHS Markitなどが登壇した同セミナーのレポートを前後編に分けてお送りする。

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ダイキンの考えるスマート工場とIoT活用

 ダイキン工業の高山氏は「モノづくり領域における協創の取組み」をテーマに特別講演を行った。

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ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター 生産システム革新グループ 生産システム革新グループリーダーで主席技師の高山正範氏

 1924年創業のダイキン工業は2012年の米国グッドマンの買収によりグローバルにおける総合空調メーカーとして成長を遂げている。現在の全世界の拠点は、生産拠点が84拠点、商品開発拠点が10拠点と、世界のさまざまなニーズにタイムリーに応える開発、生産体制を構築している。高山氏は「拠点がグローバルで拡大する中でこれらを最大活用していくことが最大のカギだと考えている。グローバルでの全体最適を実現していく」と述べている。

 これらのグローバル拠点の品質力や人材力などを支える拠点として、国内工場のマザー工場化を進め、グローバルにおける技術者育成などを推進。さらに、開発のコントロールタワーとして2015年11月には大阪府の摂津市にテクノロジーイノベーションセンターを設立している。

 ただ一方で、急速にグローバル化が進んだため、グローバルでの熟練技術者の不足が課題となりつつあった。さらに日本においても熟練技術者が徐々に引退する状況の中で「技能伝承をどう効率的に行うのか」が大きなテーマとなっていた。

 そこで、日立製作所との協創により、空調生産におけるカギを握る技能として「ろう付け」作業のデジタル化と作業評価システムの共同開発に取り組んだ(※)。ろう付け作業とは、部材を接合する手法の1つで、接合する部材よりも融点の低い合金(ろう)を溶かして部材の隙間に流し込み接合するものだ。溶接技術と似ているが、母材を溶かさないということが違いとなる。

(※)関連記事:IoTで熟練技術者の技を盗め、生産技能伝承でダイキン工業と日立が協業

 空調機器は多くの導管で構成されておりその多くを「ろう付け」により接合している。例えば、室内機と室外機の接合部分などにも使われており、冷媒漏れなど品質を左右する戦略技能の1つであるといえる。しかし一方で、ろう付け技能は一定レベルになるまでに約1年かかるという。熟練技術者の動きや状態をIoTや先進の画像解析技術で計測・解析し、技能とノウハウをデジタル化することで、技能の習得の効率化を実現する。

 具体的には、画像カメラやサーモカメラでろう付け現象の計測を行う一方で、Microsoftの「Kinect」や慣性センサーなどで作業動作の計測を行う。これらのろう付け現象と技能プロセスの関連性を分析することで、作業者の技術レベルや改善点を把握するというものである。

 高山氏は「炎の高さやトーチの角度など8つの評価項目を設定しているが、数値化でき理論的に理解できるようになることが特徴。グラフをマイスター(熟練者)に近づけられるように自己学習なども可能となる。支援システムにより訓練期間は従来比で約2分の1にできた。グローバルのどの拠点でも同一品質を実現できるようにしたい」と述べている。

ダイキンのスマートファクトリー化への道

 ダイキン工業では、以前からトヨタ生産方式(TPS)の思想をベースに独自の特徴を加え、多品種混合生産を実現する生産方式「PDS(Production of DAIKIN System)生産」を実施。さらに、生産ラインのモジュール化なども実現しており、グローバルでの生産効率向上へのさまざまな取り組みを進めてきている。

 しかし、市場や顧客からの要求はますます多様化しリードタイムの短期化なども要求されてくる。これらの要求に応えていくために、さらに一段の進化を進め、新たにIoTなどを活用したマスカスタマイズ生産(カスタム製品を大量生産の効率で生産する仕組み)に取り組む方針である。

 マスカスタマイズ生産実現に向けて「サプライチェーン」「エンジニアリングチェーン」「マーケットチェーン」をすり合わせ、顧客ニーズを素早く製品に反映させる開発、生産、供給体制が必要となる。ただ「これらの3つのチェーンの全ての要となっているのが生産現場である。まずはデジタルファクトリーの実現が大きなテーマである」と高山氏は述べる。

 このデジタルファクトリーの実現に向けてはステップとして5つのレベルを想定する。レベル1が「モニタリング」、レベル2が「正常および異常の判断(アラート)」、レベル3が「異常の予知と予測」、レベル4が「自律的な制御」、レベル5が「将来の予見」である。高山氏は「従来のPDS生産方式で達成できたのはこのレベル2までだと考えている。さらにレベル3以上の高度化を進めていく方針である。2020年にはレベル3の実現を目指したい。2018年に新たに完成する大阪府堺市の新工場でさまざまな実証を進めていく」と述べている。

 さらに重点的な取り組みとして、各設備の制御をネットワークでつなぎ、情報の標準化を進め、グローバルで活用できる情報基盤「工場IoTプラットフォーム」の構築を進める。同時にマスカスタマイズ生産に向けて部門間のシステムを「工場IoTプラットフォーム」を通じて一元的に取り扱いできるようにする。

 工場においては、データの発掘から収集、分析、現場へのフィードバックのサイクルを素早く回せるような仕組み作りを進める。その目標のもと、現在はデータ化が難しい人の作業のデジタル化と、データを価値に変える分析技術の高度化の2つに取り組む。人の作業に関するデジタル化の一環として、日立製作所とのろう付け作業の評価システムの開発にも取り組んだという。

 高山氏は「いかなる変化があってもスムーズにリズミカルにモノが流れ続ける工場というのが理想である。デジタル活用によりシミュレーションなどをうまく組み合わせることで、変化に強く止まらない現場の実現に取り組んでいく」と述べている。

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