自動車専門メディアとの熱い戦い、2017年の“メディア4耐”:モータースポーツ(4/4 ページ)
28回目を迎えたマツダ「ロードスター」ワンメークの耐久レース、「メディア対抗4時間耐久レース」に参加した。プロチームでなくても、モータースポーツは熱く盛り上がる。
給油も予期せぬトラブルが……3分では足りない?
山口選手が走行直後にもかかわらず、フルハーネスベルトの装着を手伝ってくれたこともあって、ドライバー交代は順調だった。しかし、一向にピットアウトできる気配がない、何と給油が終わらないのだ! どうやら携行缶の上部にある空気穴のネジを緩めるのを忘れていたらしい。給油の練習や確認作業を怠ったわれわれのミスだ。力持ちだからと登用(?)されて携行缶を担いでくれたメンバーも、さぞかし大変だったことだろう。
考えてみれば初めての夜の筑波サーキットだった。これまで耐久レースでゴールが日没後になることはあって、ナイターで自分がステアリングを握るのは初めてだ。何とも不思議で感慨深い光景に浸る間もなく、ハプニング到来。何と大きな虫(おそらく蛾)がフロントウィンドウに激突! しかも中段右側の、ちょうど右コーナーのクリップを望むあたりで、視界がボヤけるようで気になる。だが下手にワイパーを使ってしまうと汚れが広がってしまう恐れもあるので、気にせず走るしかない。
グリップを感じつつ、タイヤをいたわりながら走る。コーナーにカント(傾斜)が付いているとはいえ、車高とアライメントがほぼノーマルのマシンゆえ、ステアリングをこじってしまうとショルダー部ばかりが磨り減ってしまうからだ。そうなるとアンダーステアが強くなり、コーナーの進入で向きを変えることが難しくなってくる。アンカーの斎藤選手にもなるべくいい状態のタイヤで走って欲しいから、燃料だけでなくタイヤもセーブする走りを心掛けた。
2番手の柿澤選手から走った印象を聞いてみると、「VDC(スタビリティコントロール)はそんなに邪魔にならないのでは」という話だったので、試しに最初はVDCをカットせずに走ってみることに。すると、本当にギリギリまで介入することなく、その働きも自然でドライビングの邪魔にならないことに気付いた。
ヘアピンカーブの立ち上がりなどでリアタイヤがスライドしそうになった時には若干パワーを絞り車体を安定させてくれるし、最終コーナーに若干オーバースピードで飛び込んだ時もステアリングとアクセル操作で姿勢をコントロールしなくてはならないところを、リアブレーキをうまく制御してわずかなステア操作だけでラインに乗せることさえ可能にしてくれた。
NDロードスター自体、慣れればヘアピンの進入ではシフトダウンのエンブレを強めに利かせ、それで姿勢が不安定になることを利用してノーズをインに向けることもできたから、これはこれで走りやすかった。
燃費を5.9km/lでキープしておけば……チェッカーは遠かった
筆者も無事予定の周回を終え、燃料計で4分の1程度の燃料を残して交代。15l前後は残っていると思われ、ちょうどいいペースでの燃料消費だという印象だった。
アンカーの斎藤選手も8周目には1分16秒台に突入、その後も順調にラップを重ね、最終的には15秒台までタイムを上げた。「でもこのとき燃費は5.3km/lまで悪化しちゃいました。あれが無ければ……」と斎藤選手。その後、ピットの松本氏からの指示で燃料をもたせるためのペースダウンへ。20〜22秒でラップを刻み、いよいよ4時間を走り切れる状態を整えたのだが……。
4時間を迎えてからトップのマシンがゴールラインを通過する時がチェッカーなのだが、4時間直前にトップがゴールラインを通過! つまりあと1周してのゴールになったのだ。そのためわがチームもあと1周しなければチェッカーを受けられないことに。けれども無情にも燃料はキッチリと尽きて4時間走行後の1コーナーで既にガス欠状態。残念ながらチェッカーフラグを受けることはできなかった。
松本氏の考察によれば後で燃費の計算方法でミスがあったことが判明。それと誤差を併せて考えても、最終ラップでのガス欠ストップは狙ってできるものではないくらい、かなり追い込んだものであったことは確かだ。レースに“たられば”はないのは分かってはいるが、マシンがストップした時のピットのスタッフたちの悲鳴は、来年は聞きたくないものだ。
ちなみにトップから4位までは182周を周回! これは燃費基準も緩くタイヤのグリップも良いレギュレーションだった昨年よりも、むしろ3周も多く回っていることになる。さすがはトップグループと称賛しつつも、痛恨の給油ミスによるタイムロスを除いても、あと4〜5周は多く回らねば優勝できないということになる。
つまり、今年よりもはるかに良い燃費で速く走る必要があるのである。走りで柔軟な対応を見せなければいけないが、老化著しいアラフィフが3人もいるとこれがなかなか難しい。だが、クルマ好きの情熱が不可能を可能にしてくれることだろう。
それにしても、こんなにレースを楽しめたのは何年ぶりだろう。応援に来てくれたアイティメディアのスタッフのおかげで本当に楽しく4時間を走り切れた。スポンサーのカスペルスキー、VSNの両社の方々は、成績を期待出来ない初年度にもかかわらずレース中も応援してくれたのも感激した。
社内の調整、業務の処理に奔走してくれたスタッフが居たことも、後の打ち上げで知った。そう、レースはドライバーだけでは成り立たないのだ。スポンサーとの交渉から、燃費データもなく手探りでスタートドライバーを務めてくれた西坂選手には、本当にお疲れさまでした、と感謝の言葉を贈りたい。
来年はもうちょっとマシなレースをお見せできると思っている。今年の経験とデータは来年に生かせると確信しているからだ。だから、既に来年のメディア4耐が楽しみで仕方ない。
筆者プロフィール
高根 英幸(たかね ひでゆき)
1965年生まれ。芝浦工業大学工学部機械工学科卒。輸入車専門誌の編集部を経て、現在はフリーランス。実際のメカいじりやレース参戦などによる経験からクルマや運転テクニックを語れる理系自動車ライター。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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