トヨタがさらなる体制変更、「生きるか死ぬか」という瀬戸際の戦いに臨む:製造マネジメントニュース
トヨタ自動車は2018年1月1日付で行う役員体制の変更と組織改正、人事異動について発表した。副社長の役割刷新、フェローポストの新設、執行役員体制の変更時期前倒しなどを行い、役員自らが役割と意識を変革し、執行のスピードアップを図ることなどが狙い。
トヨタ自動車は2017年11月28日、2018年1月1日付で行う役員体制の変更と組織改正、人事異動について発表した。副社長の役割刷新、フェローポストの新設、執行役員体制の変更時期前倒しなどを行い、役員自らが役割と意識を変革し、執行のスピードアップを図ることなどが狙い。
役員体制の変更のうち役員の登用については、従来の枠にとらわれず「適材適所」の考えに基づいて、社内外から高度な専門性を有した人材を配置する。グループ会社や社外からの登用、女性、外国人、技能系の登用を拡大するとしている。
役員の位置付けも変更した。副社長は、社長の補佐役に加え、執行役としてカンパニーのチェアマンやプレジデント、本部長を担当し、自ら現場を指揮するとともに、次世代人材を育成する役割を担う。これにより、役員のより主体的な行動を促していく。また、高度な専門性を有する役員として「フェロー」のポストを新設し、役員の人材育成の幅を広げる。
さらに、執行役員体制の変更時期を従来の4月から1月に前倒し、組織変更とタイミングを合わせる。これにより各現場と一体となった執行をスピードアップできるとする。
今回の役員体制の変更に合わせて、副社長の数を4人から6人に増やした。これまでCFOを務めてきた永田理氏が退任する一方で、デンソー 代表取締役副会長の小林耕士氏、専務役員でコネクティッドカンパニープレジデントなどを務める友山茂樹氏、専務役員でMid-size Vehicleカンパニープレジデントなどを務める吉田守孝氏が新たに副社長に就任した。
小林氏は、トヨタ自動車の販社へのトヨタ生産方式導入で実績を上げた後、2003年にデンソーに転籍。その後2010年にデンソーの取締役副社長、2015年に代表取締役副会長に就任している。今回、グループ会社からの登用ということで、再びトヨタ自動車に戻ることとなった。
この他、トヨタ自動車で「プリウス」の開発を担当するなど製品企画で活躍し、2015年6月にアドヴィックスの社長に就任した小木曽聡氏が、新たに専務役員に就任することとなった。小木曽氏は、商用車を担当するCVカンパニーのプレジデントをチーフエンジニア兼務で務める。なお、アドヴィックスの社長には、小木曽氏に代わって、トヨタ自動車で専務役員 経理本部本部長を務めた大竹哲也氏が就任する。
また、米国シリコンバレーを拠点にAI(人工知能)など先進技術の開発を進めているToyota Research Institute(TRI) CEOのギル・プラット(Gill A. Pratt)氏が、新設の役員ポストであるフェローに就任する。プラット氏はTRIのCEOとともに、先進技術開発カンパニーのフェローを兼任する。
女性役員の登用では、Lexus International チーフエンジニアの加古慈氏が、常務役員兼Lexus Internationalのエグゼクティブバイスプレジデントに就任する。加古氏は、トヨタ自動車の生え抜き女性社員として初の役員起用となる。
新設のTPS本部とTNGA推進部は新副社長が担当
組織変更では、コーポレート/事業・販売ビジネスユニット組織を再編する。コーポレート戦略部や戦略副社長会事務局の再編によりコーポレート機能を縮小し、海外統括会社の日本組織の再編による地域に根差したオペレーションの実現を目指す。国内販売事業本部をチャネル制から地域制に再編し、より地域に密着した施策を実行する。
新設組織になるのが、TPS(トヨタ生産方式)本部だ。トヨタの強みを集約し、生産部門以外でもTPSを展開し生産性向上を目指すとしている。TPS本部の本部長は、新副社長となる友山氏が務める。
また、本社直轄組織として、コーポレート戦略部と先進技術カンパニーの先行開発推進部の一部を再編し、TNGA推進部を設置する。2013年6月にTNGA(Toyota New Global Architecture)を推進するためTNGA企画部が新設されたが、2016年3月には再編によりTNGA企画部の名称はなくなっていた。新設のTNGA推進部については、新副社長の吉田氏が担当するなど、さらにTNGAを強化する組織になるとみられる。
この他に興味深い組織変更として、先進技術カンパニーの電子先行開発部の名称が、AI(人工知能)を冠した「先進AI開発部」に変更される。
「生きるか死ぬか」という瀬戸際の戦いに向けグループの力を結集
トヨタ自動車は、2011年に「地域主体経営」、2013年に「ビジネスユニット制」を導入、2016年4月にはカンパニーを設置し、従来の「機能」軸から「製品」軸で仕事を進める体制に大きく舵を切っている。今回の体制変更は、自動車業界が「電動化」「自動化」「コネクティッド」などの技術進化により、異業種を巻き込んだ新たな「競争と協調」のフェーズに入りつつあることを受けて、グループの連携を強化し、これまで取り組んできた「仕事の進め方改革」を一層進めることを目的だ。
同社社長の豊田章男氏は「自動車業界は100年に一度の大変革の時代に入った。次の100年も自動車メーカーがモビリティ社会の主役を張れる保障はどこにもない。『勝つか負けるか』ではなく、まさに『生きるか死ぬか』という瀬戸際の戦いが始まっている。他社ならびに他業界とのアライアンスも進めていくが、その前に、トヨタグループが持てる力を結集することが不可欠である」と語る。
さらに、今回の体制変更について「大変革の時代にトヨタグループとして立ち向かっていくという意志を込めた。また、『適材適所』の観点から、ベテラン、若手を問わず、高い専門性をもった人材を登用した。何が正解か分からない時代。『お客さま第一』を念頭に、『現地現物』で、現場に精通をしたリーダーたちが、良いと思うありとあらゆることを、即断・即決・即実行していくことが求められている。次の100年も『愛』をつけて呼んでもらえるモビリティをつくり、全ての人に移動の自由と楽しさを提供するために、トヨタに関わる全員が、心をあわせて、チャレンジを続けていく」(豊田氏)としている。
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