マイクロ流体チップのパッケージングに新手法、従来と逆で「付けてから貼る」:医療技術ニュース
理化学研究所は、細胞や生体分子の機能を損なわずに、マイクロ流体チップ中にパッケージングする手法を開発した。ガラス板に細胞や生体分子を所定位置に定着させた後、ガラス板を常温での表面処理と加圧で貼り合わせて流路を形成する。
理化学研究所は2017年9月28日、細胞や生体分子の機能を損なわずに、マイクロ流体チップ中にパッケージングする手法を開発したと発表した。ガラス板の所定位置に細胞や生体分子を定着させた後、ガラス板を常温で表面処理・加圧で貼り合わせ、流路を形成する「付けて貼る」方式の手法となる。
マイクロ流体チップは、手のひら程度の基板上に指紋サイズの微細な流路を集積した器具。従来は溝のあるガラス板2枚を貼り合わせてマイクロ流体チップを作製し、その後、微細流路内に区画定着させたいタンパク質や細胞などを注入する「貼って付ける」方式を用いていた。
今回の研究では、従来の貼って付ける作製方法を見直した。微細な溝に複数種類のタンパク質や細胞などを定着させた後、2枚のガラスを常温で表面処理と加圧によって貼り合わせ、流路を形成する。この流体チップは、微細流路に過剰な圧力をかけた際、隣接する水漏れ検知流路で漏水が検出されるため、高圧下でのマイクロ流体チップの耐圧性能を測定できる。
この付けて貼る方式で作製したマイクロ流体チップは、0.11〜0.17MPaの耐圧性能を備え、実験に必要な耐圧性能を十分に持つことが分かった。さらに、細胞を区画定着させた微細流路に培養液を注入し、5日間細胞を培養して光学顕微鏡で観察したところ、微細流路内に細胞が維持されている様子を確認した。このことから、従来の手法では困難だった微細流路内への複数種類の細胞の区画定着を実現できた。
今後、同方式で作製したマイクロ流体チップを活用し、患者への侵襲を最小限に抑えた検査法の開発が予想される。電極や触媒などの機能性材料をチップに封入する手法としても利用できるため、さまざまな分野への展開が期待される。
この研究は、同研究所生命システム研究センター 特別研究員の船野俊一氏、特別研究員の太田亘俊氏、テクニカルスタッフの佐藤麻子氏、ユニットリーダーの田中陽氏の研究チームによるもの。成果は、同年9月28日付で英科学雑誌「Chemical Communications」電子版に掲載された。
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