検索
連載

リモートワークはなぜ必要? 国や地域にこだわらなければ人材は世界中にいるドイツのコネクテッドカー開発事情(3/3 ページ)

今回はドイツ ベルリンでのリモートワークが中心のワークスタイルについてご紹介します。在籍したスタートアップでは、毎日顔を合わせることは必ずしも必要ではありませんでした。インターネットにつながっていれば、どこにいても誰とでも仕事ができるのです。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

リモートワークをサブ扱いしない

 また、リモートワークを推進するにあたって大切なことは、「オフィスがメインの働く場所、リモートはサブ」と考えないことです。オフィスでの対面を前提とした打ち合わせありきの意識のままでは、リモートワークの推進は消極的なものとなってしまいます。

 例えば、ブログやCMSのプラットフォームであるWordPressは、もともとオープンソースのプロジェクトとしてはじまったものです。当初はメンバーを1カ所に集めることが物理的に不可能でした。だからこそ「会議をするから会おう」という発想になることなく、そもそも全員がリモートの状態でどうすればプロジェクトを進められるかを考えているのです。

 起業家 ジェイソン・フリードの著書「強いチームはオフィスを捨てる」でも、「リモートワークは魔法じゃない」と断言しています。場所にこだわらずに働けることは非常に大きなメリットではありますが、誰もがいつでもどこでも成果を出せるかどうかは別の問題だとしています。この本の中では、さまざまなサービスや技術を使いながら、チームで働くというプロセスを実に細かく分解して改善を重ねることを提唱しています。

 Googleの調査によると、社員の生産性を高めるために重要なことは「心理的安全」だとしています。メンバー一人一人が会社で本来の自分をさらけ出すことができること、そして、他のメンバーへの気遣いや共感、理解力の醸成が、チームの生産性を高めることにつながるのだと結論付けています。

 ということは、離れた場所で働いていても「心理的安全」が醸成されていればチームとしてきちんとアウトプットを出すことができるのではないでしょうか。リモートワークを形式的に導入するのではなく、「メンバーにどういう働き方をしてほしいのか、どういう成果を出してほしいのか」もきちんと議論する必要があるのです。

「移住をもっと簡単に」を目指すスタートアップも

 Skype創業メンバーによるエストニアのスタートアップ「Teleport」は移住やリモートワークを手助けするサービスを複数展開しています。Teleportのビジョンは「移住」をもっと簡単にすることです。そして、人生設計におけるあらゆる選択肢と手段を提供することで、各国や各都市の行政が市民の獲得を競い合う世界を作り出していくことです。

 Teleportのサービスを幾つかご紹介します。「Teleport Zen」という移住に関するチェックリストは、各都市での移住において、しなければいけない項目をまとめてくれています。家族構成や期間、目的といった情報を基に個人にカスタマイズされたチェックリストを提供しています。

 また、移住に関して相談に乗ってくれる現地エージェントを紹介する「Teleport Scout」というサービスもあります。チェックリストの中で分からない項目があった時に、転職については人材エージェントを、住居であれば不動産エージェント、携帯電話であれば携帯キャリアなど各種の現地エージェントを紹介してくれます。

 リモートワークのチームは、普段はオンラインでやりとりしつつも、時として物理的に集まらなければならないケースもあります。「Teleport Flock」というツールは、各メンバーが現在滞在している場所を入力すると、価格と移動時間を計算して、最も集まりやすい都市を探してくれます。さらに、その都市で推薦するホテルも示してくれるため、移動を計画する際の手間がかなり省けます。例えばメンバーが東京、ベルリン、ニューヨーク、シドニーに居た場合だと、最適な場所は北京だそうです。


世界各国に散らばっているメンバーが実際に集まるためのツールもある(クリックして拡大) 出典:Teleport

 Teleportの社員たちも基本的にはリモートワークです。パロアルト、タリン、ミュンヘン、ベルン、コロンビア、イギリスなどさまざまで、中には国境を越えて転々としているエンジニアもいるそうです。

 Teleport CEOであるSilver Keskkula氏にお会いした時に、彼は「今の自分は本当に居るべき場所にいるのか?」「今の自分はなすべきことをするのに適切な場所にいるのか?」と自分自身に問いかけてみてほしい、と何度も言っていました。

 場所にとらわれることなく働けるようになれば、ただ在宅勤務ができるというだけでなく、どこにいても仕事ができるということになります。それは、生き方の可能性を大きく広げてくれることになります。

 どんな制度があるか、どういうワークスタイルの事例があるかというのは重要です。それよりもさらに重要なのは、なぜその制度があるのか、何のために制度を導入するのかという点だと思います。自分がどういうふうに働きたいか、どういうことをしたいか、どうありたいのか……を考えることが、会社と従業員にとっても非常に大切だと思います。

 スタートアップに限らずとも、人材採用の競争は激しいため、今後はよりこのように自由なワークスタイルは加速していくはずです。そして、日本でもこのような流れが加速していけば、働き方の選択肢が増えて良いのではないでしょうか。リモートワークの話になると、セキュリティリスクや人材育成など課題はまだまだたくさんあります。しかしながら、時代がリモートワーク前提となってくると、企業も必然的に対応せざるを得ない状況になってくるのではないかと思います。そしてTeleportのようなサービスを見ると、それが実現する日も近いでしょう。

筆者プロフィール

別府 多久哉(べっぷ たくや)

リクルートテクノロジーズ ITマネジメント統括部 プロダクトエンジニアリング部所属

2014年新卒入社。社内研究機関であるATL(Advanced Technology Lab)を経て、現在はリクルートグループのビジネス高速化に向け、DevOps組織の推進に取り組んでいる。



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る