GEヘルスケア日野工場のスマート化、デジタルと人の織りなす改善が原動力に:スマートファクトリー(3/3 ページ)
GEのスマート工場「Brilliant Factory」において、世界に7つあるショーケースサイトの1つになっているのがGEヘルスケア・ジャパンの日野工場だ。30年以上の歴史を持つ日野工場のスマート化は、ロボットやAIが活躍する近未来の工場ではなく、デジタルと人の織りなす改善によって実現されている。
X線CT装置の組み立て作業のムダを省く
日野工場で生産している主力製品は「Optima CT660」などのX線CT装置だ。生産台数は年間で約450台。1日当たりに換算すると2〜3台で、PCやテレビなどの民生用機器と比べると桁違いに生産台数が少ない。日野工場におけるスマート化の取り組みは、X線CT装置という、部品点数が多く、付加価値の高い製品を生産する場合の事例といえるだろう。
今回公開したのは、X線CT装置のコア部品となるCTガントリの生産ラインだ。メインのムービングラインを時速1mというゆっくりした速度と進むCTガントリに対して、500点以上の部品を5人の作業員が手作業で組み付けていく。また、サブラインでは、部品棚から部品を取り出して、メインラインでの作業を進めやすいような下ごしらえも行っている。
そして、これらの組み立て作業のムダを省くために標準化が徹底されている。例えば、部品供給を効率化するための「キットカート」は、カートに明示されている順番通りに作業を行えば組み立てをスムーズに進められるようになっている。また、キットカート1台で1時間分の作業に相当するように調整されている。「これによってキットカートがペースメーカーになって、作業時間の標準化も図れている」(GEヘルスケア・ジャパンの説明員)という。
キットカートにはRFIDが付いており、生産ラインへのキットカートの出入り時間が自動的に記録されるようになっている。作業員全員が見られる大型液晶ディスプレイのアンドンには、キットカートの出入り時間がExcelによって表示されており、目安の1時間から10分以上の遅れが起こっている場合には赤色で表示してアラートを出すようにしている。
また、RFIDで記録するキットカートの動きから、疑似的に作業員の動きを把握することもできる。トラッキングシステムを使っていなくても「つなげる」「知見を得る」「最適化する」と実施できているというわけだ。
「PREDIX」の活用でやりたいときに改善をやれる環境に
また、GEの産業用IoTプラットフォームであるPREDIXの活用例として、生産に関するKPI(重要業績評価指標)を表示するダッシュボードアプリ「Manufacturing Hub」を披露した。
例えば、キットカートの動きについて標準に対するばらつきが見られるレポーティングツールでは、各プロセスの作業者ごとでもばらつきを確認できるようになっている。従来は、ホワイトボードに記録してから、記録内容をExcelに入力してプロットを出力する必要があった。「これだと結果を見るのに1〜2週間遅れになるが、現在はリアルタイムで状態を見ることができる」(同説明員)。
「Manufacturing Hub」の画面例。各キットカートの作業にかかる時間を、作業員ごとにプロットしている。「もし作業に時間がかかっているようであれば、作業員の責任にはせず、仕組みを変えることで改善するように心掛けている」(GEヘルスケア・ジャパンの説明員)(クリックで拡大)
従来の手法における改善のサイクルだと、3カ月に1回のアクションワークアウトになっていた。しかし、Manufacturing Hubのおかげで、データを集める作業が不要になったため、やりたいと思ったときにすぐにアクションに移れるようになった。「PREDIXによる“見える化”を意識付けするため、大型液晶ディスプレイに表示していたが、現在は意識付けが浸透し、PCやモバイル端末で見たい時に見るようになっている」(同説明員)という。
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