プリント基板試作の見積もり待ちをゼロに、ソフトによる自動化がハード開発を変える:関信浩が見るNYハードウェアスタートアップの今(2)(2/2 ページ)
FabFoundryの創業者・関信浩氏が米国東海岸のハードウェア・スタートアップ企業の動向を探る本連載。第2回は、従来プリント基板試作の発注時、人の目によって行われてきた「エラーチェック」や「見積もり」の作業を自動化し、収益化を目指すNY発のスタートアップ「PCB:NG」を紹介する。
企業のサービス改善を図る仕組みとして提供
PCB:NGは現在、1基板あたり20ドル以上の発注で5営業日以内の発送を保証するなど、「短納期」を前面に押し出しています。ただ創業者兼CEOのJonathan Hirschman(ジョナサン・ハーシュマン)氏によると「図面(ガーバーデータ)を受け取った段階から、電子部品や基板の調達コストの最適化を図れるため、今後ユーザー数が増えれば、スケールメリットによる低価格化も可能になる」と説明します。
さらにPCB:NGは、同社の開発したシステムを、プリント基板の実装サービス業者に提供する可能性もあります。レストランの座席予約サービス「OpenTable」は、それまで人手を介して行われていた予約業務を自動化するシステムであり、多くのレストランに使われています。PCB:NGも、世界中にあるプリント基板の実装サービス業者と競合するのではなく、こうした企業のサービス改善のための仕組みとして普及する可能性があります。というのも 「部品調達の時間」や「顧客への配送の時間」が、基板実装サービスの納期を決める大きな要素であるため、実装は顧客に近い場所で行う方が理にかなっているためです。
「当たり前」から脱却する
「見積もりを取る」ことはごく一般的な商習慣であり、そのためにかかるわずかな労力を減らすためにシステム投資する判断は難しいことかもしれません。
しかし似たような事業構造だった「旅行代理店」のモデルは、システム化による見積もりプロセスの自動化により、今では、営業担当者からの見積もりを待って価格を比較する、ということはほとんど行われていません。
世の中に分散する“1つ1つは小さな「ムダ」”を、ソフトウェアによる「自動化」とインターネットによる「細分化(Fragmentation)の解消」で、新しいビジネスを生み出すことができます。
そのためのキッカケは「より早く、より効率的に試作したい」という顧客視点を、徹底して追求する姿勢です。技術エリアを深掘りすることも重要ですが、まったく別の角度から、ユーザーが何を求めているかにも目を向けたいところです。
筆者紹介
関信浩(せき のぶひろ)
新聞系大手出版社でITジャーナリストとしてシリコンバレーの取材を数多く手掛ける。その間、シリコンバレーのスタートアップの数多くの成功は、技術だけでなく「米国式スタートアップ経営」に基づくと痛感し、コンピュータ技術に強いカーネギーメロン大学のビジネススクールに留学。在学中にスタートアップ事業の立ち上げを試みるが、資金不足により断念する。
その後、シリコンバレーのスタートアップSix Apartに初期メンバーとして合流し、日本におけるブログの啓蒙活動や、日本法人の立ち上げ、同社のCMS製品Movable Typeの米国事業責任者などを務める。2015年に米ニューヨークで、日本の製造業と米国のハードウェアスタートアップをつなぐFabFoundryを創業。米国のスタートアップのメンターや役員を務めながら、日本企業との連携のメリットを説いている。
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