異例の大売れ工具「ネジザウルス」、社員30人の中小企業がヒットを連発する理由:イノベーションで戦う中小製造業の舞台裏(5)(1/5 ページ)
自社のコア技術やアイデアを活用したイノベーションで、事業刷新や新商品開発などの新たな活路を切り開いた中小製造業を紹介する本連載。今回は年間1万丁売れれば大ヒットといわれる工具業界で、累計250万丁を売り上げた大ヒット商品「ネジザウルス」を開発した工具メーカーのエンジニアの取り組みを紹介する。
ネジを外そうとしたら、サビついていて回らない。力いっぱい回したら、ネジ頭をナメてしまった! 誰でも一度は経験したことがあるだろう。そんなときは「ネジザウルス」の出番だ。
普通のプライヤではネジ頭を挟んで回そうとしても、滑ってしまって回らない。ところがネジザウルスなら、がっちりとネジをつかんでカンタンに外すことができる。年間1万丁売れれば大ヒットといわれる工具業界で、2002年の発売以来、累計250万丁の販売を達成したネジザウルス。社員30人の中小企業が、大ヒット商品を生み出したノウハウを取材した。
目標は、世界一、ユーザーに愛される工具メーカー
エンジニアの前身は、1948年創業の「双葉工具製作所」だ。現在のエンジニアの社長を務める高崎充弘社長の父と叔父が作業用工具の製造卸業として事業を開始した。プロ用作業工具専門の製造販売会社で、クライアントの要求に応じたオーダーメイド工具を得意としてきた。
高崎社長は造船会社に10年勤務した後、1987年に家業を継ぐために同社に入社。以来、年間40アイテムのペースで新製品を開発してきたという。「過去20年で800アイテムを開発してきました。そこそこ売れるけれど、大ヒット作は出ませんでした」と高崎社長は過去を振り返る。ちなみに、工具業界では年間1万丁が売れれば大ヒットのラインだという。
同社は2002年8月に初代ネジザウルスを発売。4カ月で7万丁が売れた。同社初の大ヒット商品だ。
ネジザウルスは、モノをつかんだり切断したりするための工具であるプライヤに「回す」という機能を追加した商品である。通常のプライヤには先端部分の溝が横に掘ってあるため、ネジの頭をつかんで回したときに滑ってしまい、力が入らない。先端に縦溝を施し、がっしりとつかんで回せるようにしたのがネジザウルスだ。
同社は、業務用工具のセットに入っていた特殊プライヤからヒントを得て、「ネジ頭をつかんで回す工具」としてネジザウルスを考案。プロ用工具の販売ルートだけではなく、ホームセンターや金物店に新たな販路を広げたことで、一般ユーザーが購入できるようにした。
こうした販路拡大の戦略が功を奏し、初代ネジザウルスはヒット商品となった。その後、より大きなネジに対応する2代目「ネジザウルスRX」、小さなネジを扱える3代目「ネジザウルスM2」とシリーズ化した。
しかし2008年、シリーズ累計30万丁を販売したところで販売数が伸び悩んだ。「これだけ売れれば大金星」という判断もあるだろう。しかし高崎社長は「日本には5000万の世帯がある。まだまだ行けるはず!」と考えた。「一家に1本ネジザウルス」のキャッチコピーを掲げ、売る姿勢を緩めなかった。
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