製造業の今までの10年、これからの10年(前編):MONOist編集部が語る10年(2/2 ページ)
2017年8月1日に10周年を迎えたMONOist。それを記念して編集部員が製造業のこの10年と将来について語った。笑いあり、涙ありの熱いトークバトルをお伝えする。
電動化から自動運転へと技術進化が進む自動車
ミシマ みんなはこの10年間の製造業の動きで特に印象に残っていることはありますか?
サンスー ちょうど10年間自動車業界を見てきた経験からすると、自動車については「電子化の10年」といえるんじゃないですかね。2007年ごろは自動車の開発といえば、機械設計が重視されていて、開発のトップも機械担当者が占めていました。その中でこの10年で、自動車内で使用されるエレクトロニクスの比率が一気に高まってきました。開発の手法そのものが大きく変わったということがいえるかもしれません。
今ではエレクトロニクスの導入だけでなくITの導入が加速しています。実際にそういう技術者を募集する動きも強まっていますよね。2007〜2010年にかけては電動化技術が普及してきたなと思ったら、そこからさらにさまざまな技術を加えて、一気に自動運転へと舵を切ってきたという印象ですね。自動車という基本的な形は変わらないですが、中に入っている技術やそれを作り上げるやり方というのはこの10年で全く変わっているといえるんじゃないですかね。
サイトー 私も「自動運転」が急に盛り上がり始めたことは印象的でしたね。
軽自動車でも2013年からは自動ブレーキが搭載されるようになり、運転支援の領域は進むと見ていました。当初は日本の自動車メーカー各社は運転支援は強化するという方針を示していましたが、完全自動運転については「まだ先」というスタンスだった気がしていました。そうした状況から一気に自動運転へのロードマップができて「完全自動運転まで待ったなし」という機運が高まってきました。そういうダイナミックな動きは本当に面白いと思いましたね。
サンスー 電機業界の担当から自動車業界の担当に移ったときに衝撃的だったのが、開発期間の長さですね。半導体やエレクトロニクス業界ではありえない開発期間で本当に驚きました。半導体製造装置でさえ、毎年小さな進化でも新製品が出る中、自動車の新製品は完全に新しく作る場合は5年かかるというのは価値観を変えられました。でも、電動化や新しい技術の採用がより求められる中で、こうした商習慣も徐々に変わってきたように思います。
大枠として5年かかるといわれている開発サイクルは変わらないですけど、マイナーチェンジといえども新技術がどんどん搭載されるようになってきたし、ずっと自動車の開発に携わる技術者にとっては、最近の動きは「非常に早くなった」と感じているんじゃないですかね。そういう意味で自動車技術におけるこの10年は、過去にない非常に面白い10年でした。技術サイクルがどんどん早まる中、ITやIoTとの融合なども進みコネクテッドカーとなっていく中で、この先10年もおそらく大きな変化が待ち受けていると思います。とてもワクワクしますね。
CAD、CAEの買収と進まない3D化
ミシマ コバユミさんはどうですかね?
コバユミ メカ設計の領域では、CADとCAEの買収がものすごく進んだことが印象的ですね。MONOist発足当初にいきなりコクリエイトがPTCに買収されたり、M&Aが進みました。10年前あったブランドが今は買収されてなくなっていたり、ブランド名が変わったりしています。CAE系ベンダーについては、独立会社は多くがなくなっていき、大手ベンダーに取り込まれる動きが強まっています。
買収の中で印象的だったものの1つが、シーメンスにUGSが買収されたこと。ファンが多かったブランドがなくなったのは少し残念でした。また、パラメトリックCADの元祖のPTC「Pro/ENGINEER(通称「Pro/E」)」も現場には非常に浸透したブランドでしたが、現在は「Creo」に統合されています。
サンスー パラメトリックとノンパラメトリックが融合する動きが出始めたのがちょうどMONOistができた頃ですよね?
コバユミ ノンパラメトリックとパラメトリックの機能が融合し始めたのがちょうど10年前くらいからですね。今では、パラメトリックとノンパラメトリックのどちらの機能も備えるのが主流になってきています。主要ベンダーのCADは両方を使い分けて使うというのが当たり前になっていますね。
基本的には、モデリングの簡略化をより進めていこうというのが大きな流れだと思います。パラメトリックの面倒な作業を、よりダイレクトに直感的に行えるようにしようという動きですね。AI(人工知能)の活用や、ジェネレーティブデザインなども大きく分ければこの流れの1つだといえます。
ミシマ CADやCAEをずっと見てきてこの10年というのはどういう印象ですか?
コバユミ CAEにしてもCADにしても、アーリーアダプターと後追いの差が大きい世界だと感じています。先行するところはどんどん利用していますが、隅々まで普及するというようにはなってはいません。3D CADについては、既にMONOistが発足した10年前から利用していたところは利用していました。それでも、いまだに2次元CADを使っていたり、もっといえば手書きで図面を書くような環境も残っていたりします。
現場の意識として、忙しすぎて新しいツールに対応する暇がないという状況が10年間続いているということもあるかもしれません。また、メリットがうまく伝わっていないという面もあるかもしれません。さらに、説明できる人がなかなか日本にいないという課題もあるかもしれません。こうした意識や環境の中で、新しい技術や環境の価値を訴えてきた10年でしたね。伝える難しさというのは感じていますね。
電機業界の没落と時代の変化
サンスー ミシマさんは製造業の10年の動きで何が印象に残っていますか。
ミシマ 私は電機業界の地盤沈下が少し苦い思いとともに印象に残っています。直近の東芝、少し前のシャープなどを見ても、この地盤沈下の動きは10年間続いてきてまだ終わりが見えない状況ですね。
サンスー 日本ビクターの経営不振くらいから顕在化したような感じですよね。
ミシマ 確かにそうかもしれませんね。VHSの開発元だった日本ビクターは、さまざまな特徴的な製品を生み出し、海外でも通じるブランド力も備えていて、とてもユニークな存在でした。しかし、デジタル化の流れの中で、製品の差別化ができなくなり、最終的にケンウッドに買収され、多くの製品群が終息していきました。当時は親しい人たちもたくさんいたので、とても寂しかったです。
今振り返ってみると、そうした時代の変化に日系製造業が後手に回りつつあったことを示す兆候はたくさんあったような気がします。例えば、薄型テレビは、韓国のサムスン電子やLGエレクトロニクスが既に米国などでは多くのシェアを取るようになっていて、米国の量販店では既に韓国製が中心に展示されるようになっていました。日系メーカーは「品質や画質で差別化できる」と訴えていましたが、店頭を見ると価格差につながるほどの差別化はできていなかったことは明らかでした。製造の現場力という点で見ても、テレビ生産の付加価値は上流のパネルに移り、どこで作ってもそれほど変わらない状況で、機種によっては日系メーカーも韓国メーカーも同じ生産委託先を使っていたりしていました。
そういう状況も当時から見えていたとは思うのですが、メディアとして警鐘を鳴らすということはできなかったなあと少し反省する気持ちがあります。
(後編に続く)
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