グローバル大手が国内FA市場にあらためて攻め込む2つの理由:スマートファクトリー
シュナイダーエレクトリックは、産業向け事業の戦略発表を行い、国内FA市場への展開を本格的に強化する方針を示した。現在はプログラマブル表示器が中心だが、それ以外の領域で2020年度までに売上高20%増を目指すという。
フランスのSchneider Electricの日本法人であるシュナイダーエレクトリックは2017年8月23日、都内でインダストリー事業の戦略発表を行い、国内FA(ファクトリーオートメーション)領域への取り組みを本格的に強化する方針を示した。現在は2002年に買収したデジタルが展開するプログラマブル表示器が売上高のほぼ全てだが、2020年までに新規領域の開拓を進め、20%増とする目標を示した。
シュナイダーエレクトリックの制御機器における勝算
シュナイダーエレクトリックといえば、日本ではデータセンター向けソリューションが有名である。しかし、グローバルではBEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)などを含めたビル向けのソリューションや、プロセスオートメーションなど制御機器が売上高の大半を占める企業だ。
シュナイダーエレクトリック(日本法人) 日本統括代表のシャムス・ゼン氏は「グローバルでは『ビルディング』『インフラ』『インダストリー』『データセンター』の4つの事業ドメインで展開しているが、データセンター向けの売上高は最も比率が低い。しかし、日本では逆にデータセンター向けが多くを占めており、それ以外の領域の売上高は限られている状況だった」と日本の状況について述べている。
ただ、2016年末にインダストリー事業部を新たに設置。新たに製造業などに向けたFA(ファクトリーオートメーション)およびPA(プロセスオートメーション)製品やソリューションを本格的に展開していく方針とした。
日本には、世界的に有力な製造業が数多く存在している。しかし、シュナイダーエレクトリックにとって、これらの有力企業向けにオートメーション製品群を展開するという意味で、日本市場は厳しい環境だったのが実情だ。しかし、あらためてシュナイダーエレクトリックがオートメーション関連製品を展開する理由として、シュナイダーエレクトリック インダストリー事業部 バイスプレジデントの勝村友一氏は2つの理由を挙げている。
1つ目は買収により既に顧客や地盤のある製品群をポートフォリオに加えることができた点である。「デジタルが展開してきたプログラマブル表示器やパネルコンピュータなどのHMI(ヒューマンマシンインタフェース)機器は『Pro-face』ブランドとして業界に定着している。25年の実績を持ち200万台以上の実装実績があり、これらを基軸に周辺の制御機器を展開できるのは利点である。さらにInvensys Process Systemsが展開してきたプロセス監視制御ソフト『Wonderware』などもあり、既に実績のある製品やサービスを基軸にさらなる成長が可能である」と勝村氏は述べている。
2つ目は、インダストリー4.0や第4次産業革命などの流れの中で、スマートファクトリー実現に向けた取り組みが本格化している点である。勝村氏は「既存の製品群の中での競合関係では厳しいが、IoTやスマートファクトリーに関心が集まる中で、新たな『つながる』価値が生まれてきた。その中でシュナイダーエレクトリックでは、既に数多くのつながる製品群を展開している。加えて、スマート化に向けた産業別や製品領域別のソリューション『EcoStruxure』なども既にグローバルで展開しており、IoTの流れの中で新たなチャンスが生まれたと感じている」と述べている。
HMIを中心にFA装置メーカーを中心に提案
とはいえ、当面は「Pro-face」ブランドのHMI機器を中心とし、その関連でグローバルで展開する機器群などの提案を広げていくというシナリオである。シュナイダーエレクトリックでは、グローバルでは、モーターやモータードライバー、PLC、汎用インバーター、スイッチング電源、センサー類など多岐にわたるオートメーション関連製品群を展開しているが、日本ではほとんど扱われていない。既に200万台導入しているHMI機器による顧客やパートナーとの関係性をベースとして、取扱い製品の拡大を狙っていく方針だ。勝村氏は「まずはHMIとの関連性が深いモータードライバーやPLCなどの製品群から広げていく。その後、センサー製品やモーション関連製品などに広げていきたい」と述べている。
「EcoStruxure」を展開できる体制に
「ソリューションとして将来的には展開を進めていきたい」(勝村氏)とする「EcoStruxure」は、シュナイダーエレクトリックがグローバルで展開する産業用IoTの基幹アーキテクチャである。産業などに応じ、ハードウェアやソフトウェア、ネットワークやインテグレーションなどを最適な形で組み合わせ、4つの産業向けに8個のアーキテクチャを用意し、一種のテンプレートとして活用することで、IoT活用の効果を早期に出せるように支援するものである※)。
※)関連記事:20年前から取り組む企業が語る「今までのIoT」と「これからのIoT」
国内においては、包装機、搬送機、加工機、ホイスト、ポンプ、空調冷凍機の6つの分野のセットメーカーをメインターゲットとして提案を進めていくとしている。
勝村氏は「ソリューションの提案は簡単にはできないので、まずは社内で体制を整え、専門領域ごとに専門の担当者を設置する。さらにそれぞれの領域に強いパートナー企業と組んで展開していく。2020年までに社内の専任5人、外部パートナー5社をそろえる」と抱負を述べている。これらの取り組みにより、2020年までに売上高20%成長を目指すとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 20年前から取り組む企業が語る「今までのIoT」と「これからのIoT」
ビル制御などでグローバルでは大きな実績を持つフランスのシュナイダーエレクトリックは約20年前から、現在のIoTに当たる取り組みを進めている。過去の取り組みに対し、現在のIoTは一体どのような点が異なり、どういう価値を新たに生むのだろうか。シュナイダーエレクトリックのエグゼクティブバイスプレジデント IoT&デジタルトランスフォーメーション担当のシェリル・ペルドカット氏に話を聞いた。 - ARで保守を効率化、プログラマブル表示器でスマートデバイスと連携
シュナイダーエレクトリックは、産業向け事業への取り組みを発表。新たにプログラマブル表示器を活用したARソリューションを展開し、保全作業の効率化と人為的ミスの削減を提案する。 - スマートファクトリーがいよいよ現実解へ、期待される「見える化」の先
ドイツのインダストリー4.0がきっかけとなり関心が高まった、IoTを活用したスマートファクトリー化への動きだが、2017年は現実的成果が期待される1年となりそうだ。既に多くの実証成果が発表されているが、2017年は、実導入ベースでの成功事例が生まれることが期待される。 - 第4次産業革命って結局何なの?
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。しかし、そこで語られることは抽象的で、いまいちピンと来ません。本連載では、そうした疑問を解消するため、第4次産業革命で起こることや、必要となることについて分かりやすくお伝えするつもりです。第1回目はそもそもの「第4次産業革命とは何か」を紹介します。 - 第4次産業革命が生みだす「つながる産業」、3つのWGが目指すもの(前編)
ロボット革命イニシアティブ協議会は2017年6月に3つのワーキンググループの活動報告と2017年度の取り組み方針について紹介した。本稿では前編で「IoTによる製造ビジネス変革WG」と同WGのサブWG活動内容を、後編で「ロボット利活用推進WG」と「ロボットイノベーションWG」の活動の様子を紹介する。 - 日本が描く産業の未来像「Connected Industries」、世界に発信へ
日本政府は、ドイツの「インダストリー4.0」、フランスでの「産業の未来」などに当たる、政府主導の将来の産業コンセプトとして「Connected Industries(つながる産業)」を発表。今後、同コンセプトを軸に各種施策を進めていく。