次世代がんワクチンで東大が治験、再発・治療抵抗性の急性骨髄性白血病向け:医療技術ニュース
東京大学は、同大学医科学研究所附属病院で、理化学研究所による次世代がんワクチン「人工アジュバントベクター細胞(エーベック:aAVC)」の医師主導型治験を実施する。
東京大学は2017年7月5日、同大学医科学研究所附属病院で、理化学研究所(理研)による次世代がんワクチン「人工アジュバントベクター細胞(エーベック:aAVC)」の医師主導治験を実施すると発表した。治験は、同附属病院血液腫瘍内科 教授の東條有伸氏らによって行われる。
がん細胞は、ヒト組織適合抗原(HLA)を発現している細胞と発現していない細胞が混在するため、両者を排除するには自然免疫と獲得免疫を同時に活性化する必要がある。理研では、単回投与で自然免疫と獲得免疫、さらには1年以上にわたって持続可能な記憶免疫を誘導する「多機能性がんワクチンシステム」のエーベックを開発した。
エーベックは、T細胞の標的となるがん抗原と、NKT細胞を活性化する糖脂質(α-GalCer)を付着させるタンパク質「CD1d」を持つ任意の細胞に、糖脂質を付着して作る細胞の総称。CD1dを介してエーベックに付着した糖脂質は、自然免疫リンパ球のNKT細胞を活性化させるが、エーベック自体は体内で破壊されて樹状細胞に取り込まれる。この一連の反応により、体内の樹状細胞の働きが最大限に強化され、ワクチンとして機能する。なお、樹状細胞は、自然免疫と獲得免疫を連結させる重要な免疫細胞で、T細胞の司令塔だ。
今回の治験では、再発または治療抵抗性急性骨髄性白血病を対象とし、白血病に高率に発現するWT1抗原を標的としたヒト型のWT1抗原発現エーベック(aAVC-WT1)の第1相試験を実施する。実際のがん患者のがん細胞を使うと個別のがん患者に最適なエーベックを提供できるが、aAVC-WT1は放射線照射した他家細胞を用いることで、誰にでも使用できる。
これまでに、WT1抗原を発現しているがん全般に対して有効性を示すデータが得られているため、将来的には対象疾患の拡大が期待できるという。また、aAVCはワクチンシステムのため、他のがん抗原を発現したaAVCの開発も可能であるとしている。
同研究所および附属病院は、基礎研究を臨床応用へとつなげる日本医療研究開発機構(AMED)「橋渡し研究戦略的推進プログラム」の拠点となっている。この拠点では、同ワクチンの開発や医薬品医療機器総合機構(PMDA)との薬事戦略相談を支援している。
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