再生不良性貧血から白血病に至る過程の遺伝子変異を解明:医療技術ニュース
京都大学は、次世代シーケンサーを用いた全ゲノム解析により、白血病の発症に先立って造血系に遺伝子異常が生じ、数年の経過を経て白血病などの造血器腫瘍を発症する場合があることを解明したと発表した。
京都大学は2015年7月9日、次世代シーケンサーを用いた全ゲノム解析により、白血病の発症に先立って造血系に遺伝子異常が生じ、数年の経過を経て白血病などの造血器腫瘍を発症する場合があることを解明したと発表した。同大医学系研究科の小川誠司教授、米国立衛生研究所(NIH)のNeal Young博士、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターの宮野悟教授、金沢大学附属病院の中尾眞二教授、米クリーブランドクリニックのJaroslaw Maciejewski博士らの研究チームによるもので、同年6月25日に米科学誌「The New England Journal of Medicine」の電子版に掲載された。
近年ゲノム解析の進歩により、急性骨髄性白血病(AML)では、種々の遺伝子に変異が蓄積していることが明らかにされている。しかし、白血病診断以前の試料を得ることが困難なため、発症以前にどのような異常が生じているか、発症までにどれくらいの時間を要するかについては、ほとんど分かっていなかった。
同研究グループでは、再生不良性貧血から白血病を発症する過程で生じる遺伝子変異の挙動を明らかにするため、439症例の再生不良性貧血の患者から数年間にわたって採取された668検体の血液試料について、次世代シーケンサーを用いて遺伝子変異を解析した。
まず、白血病で頻繁に認められる原因遺伝子を標的として、これらの遺伝子に生ずる変異を詳細に解析したところ、再生不良性貧血の患者の約3分の1では、経過中に白血病その他の血液がんで認められるような変異を持った細胞が出現することが分かった。また、SNPアレイを用いた染色体数の異常の解析を合わせると、計47%の症例でゲノム変異を持った血球が認められた。
これらの変異のうち約75%は、PIGA、BCOR、BCORL1、DNMT3A、ASXL1の5つの遺伝子に変異を生ずると分かった。さらに、個々の変異を有する細胞の経時的な挙動を調べたところ、DNMT3A、ASXL1変異を有する患者では、これらの変異を持った細胞が継時的に増加して白血病を発症し、予後不良の傾向が認められた。一方で、PIGA、BCOR、BCORL1変異を有する患者では、これらの変異を持った細胞が消失する傾向が見られ、予後も良好であったという。
同研究では、白血病の発症前に生ずる遺伝子の変異について、その挙動と予後に及ぼす影響を明らかにしたことで、再生不良性貧血から白血病・骨髄異形成症候群に至るメカニズムの解明に貢献できるという。また今後、こうした遺伝子変異に注目することで、白血病の早期診断・早期治療への応用が期待されるとしている。
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