「NDロードスター」と「124スパイダー」から見えてきた、愛車になるための“余白”:クルマから見るデザインの真価(13)(6/6 ページ)
4代目となるマツダの「NDロードスター」。2012年発売の「CX-5」から展開されてきた新世代商品群の真打で、初代ロードスターのデビューから25年目での全面改良となった。兄弟車と比較することで、NDロードスターの個性と“余白”が見えてきた。
メーカー自身もロードスターの余白を楽しんでいる
2015年のカスタムカーの展示会「Specialty Equipment Marketing Association(SEMA)」に出展した「MX-5 Spyder」と「MX-5 Speedster」(クリックして拡大) 出典:マツダ
これまでに幾つかのモーターショーや展示会で、NDロードスターをカスタマイズしたスタディーモデルを見せてきているが、こういった姿勢からは、ユーザーの余白の楽しみ方をマツダも共有しようというメッセージとも伺える。さらに拡大解釈して、「RF」も「124スパイダー」も、メーカー自身がベースのロードスターが持つ余白を楽しんだ結果と見立てるのも面白い。
今回広報車を借用・返却する際、担当の方に少し話を伺った。その中で、マツダの人たち自身が、オーナーズクラブのミーティングに出向いていったり、企業として参加したり、オーナーズクラブ主催のイベント会場の場として横浜のR&Dセンターを提供したりといった時の様子を聞くことができた。
そういったイベントにも積極的に関わっていることと、ロードスターが持つ余白などを重ね合わせていくと、オーナーとメーカーで、それぞれ楽しみ方を見せ合いっこをしているようだ。
余白をオーナー側に委ね、オーナーの楽しみ方をマツダも共有して楽しもうとしている。そういうようなメッセージを他のクルマと比べるとより感じるのだ。
こういったメーカーとユーザーの関係性は、今のSNSの時代には違和感のない動きと感じるが、NAロードスターのころから続けてきたからこそ、世の中の景気の変動の中でも作り続けることができた原動力になっているのではないだろうか。
カスタムショップのオヤジのように
カスタムカーの展示会SEMAで2016年は「MX-5 Speedster Evolution」を紹介。2015年に出展したMX-5 Speedsterから、さらに軽量化を図った(クリックして拡大) 出典:マツダ
余談であるが、広報車貸し出し担当のマツダの方が、ロードスターのオーナーの人たちのカスタマイズの話を楽しそうに語る様子は、「メーカーの人」というよりは、街のスペシャルショップのオヤジが、自分の店に出入りするお客さんの様子を語っているのと変わらない雰囲気であった(担当されていたのは女性の方なので、「オヤジ」という表現は失礼ではあるのだけど)。
オーナーズクラブのイベントにこんなカスタマイズされたロードスターがあったんだとか、オーナーさんがこういう自慢をしていたとか、今もNAロードスターに乗っているオーナーさんの中には、NDに興味を示したりしつつも、やはりNAに乗り続けているオーナーさんが結構多いのだとか……まぁ、実に多くの話題が次から出てきて楽しく聞かせていただいた。
NDロードスターが発売されたのが2015年。もうしばらくすると、NDロードスターも中古市場にそれなりの台数が出てくるようになる。そうなると、また一段とオーナーの人たちの楽しみ方の幅も拡がっていくのだろう。
その様子を、メーカー側も共有してきている姿勢がロードスターの価値として積み上がってきているのだと感じる。スポーツカーが存続していくには、「ユーザー」にとどまらない「ファン顧客」の存在が欠かせない。
Profile
林田浩一(はやしだ こういち)
デザインディレクター/プロダクトデザイナー。自動車メーカーでのデザイナー、コンサルティング会社でのマーケティングコンサルタントなどを経て、2005年よりデザイナーとしてのモノづくり、企業がデザインを使いこなす視点からの商品開発、事業戦略支援、新規事業開発支援などの領域で活動中。ときにはデザイナーだったり、ときはコンサルタントだったり……基本的に黒子。2010年には異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。最近は中小企業が受託開発から自社オリジナル商品を自主開発していく、新規事業立上げ支援の業務なども増えている。ウェブサイト/ブログなどでも情報を発信中。
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