「NDロードスター」と「124スパイダー」から見えてきた、愛車になるための“余白”:クルマから見るデザインの真価(13)(5/6 ページ)
4代目となるマツダの「NDロードスター」。2012年発売の「CX-5」から展開されてきた新世代商品群の真打で、初代ロードスターのデビューから25年目での全面改良となった。兄弟車と比較することで、NDロードスターの個性と“余白”が見えてきた。
ユーザーに委ねられた余白が、ロードスター支持の源泉
ロードスターは4代目のND世代になってフィアットを兄弟車に持つという興味深い展開になった。それぞれのブランドのクルマの違いにより、ロードスターの“らしさ”が一段と際立つようになったように思う。
ロードスターの一番のらしさとは、初代から一貫して、人を中心に置いた仕立て「人馬一体」をいろいろな切り口からユーザーに見せていること。そして、“素材”としてクルマを提供していることだ。
素材であるが故に、そこにはユーザーが自分の好みに仕立てる余白が生まれる。ここは初代から続く魅力であり、1つのモデルを長く乗るオーナーも多いというユーザー像につながっている。
余白を埋めていく中で、クルマは“移動の道具”から、それぞれのユーザーの“愛車”になる。スポーツカーのように趣味性の高いクルマにおいては、それはユーザーにとって重要なことだ。それはクルマの作り手側も意識しているので、ロードスターに限らず余白を作っているクルマは珍しくない。
その余白の埋め方はさまざまだ。一般的なのはメーカーが多くの選択肢を用意し、それらの組み合わせの多様性により、オーナーの1台を提供する方法。超高級車から軽自動車まで、選択肢の幅はあれど多くはこれだ。少し冷めた見方をすると、選択肢=オプション装備品の組み合わせ方で、メーカーや販社の売り上げ増になるという理由もあろう。
同じ国産車のスポーツカーということでトヨタ自動車「86」を眺めてみると、メーカーが選択肢を用意するタイプだ。パーツ単体でのオプションに加え、TRDやモデリスタなど、メーカー自身によるカスタマイズドカーもラインアップに並んでいる。
ひと手間かけて完成させたくなる
ではロードスターはどうか? マツダはロードスターの余白をユーザー側に委ねているように感じる。もちろんそういう宣言が、Webサイトやカタログ、広報資料などでなされている訳ではない。しかし、クルマを試乗したり、マツダの方から聞いた話などを重ね合わせて見ていくと、そう解釈していくとしっくりくる(最初から意図的にそのように組み立てられたものなのか、初代のNAロードスターからの歴史の中で、結果的にそうなってきたのかは分からないけれど)。
ロードスターのカタログやWebサイトを眺めても、趣味性が高いクルマである割に、用意されているオプションの選択肢は思いの外少ない。かといって「メーカーで作られた状態でないとベストコンディションでなくなるから、社外品のパーツなどを付けてもらっちゃ困る」なんて姿勢はない。
筆者も試乗しながら、ホイールや外装の一部は違うデザインにしたいなぁ、とか、内装のカラーやマテリアルを変えると雰囲気かわるなぁ、なんてことを想像しながら乗っていた。ちょっと足りないところがある感じが、ユーザーがひと手間を楽しむことでクルマが完成する、という期待感を抱かせる。
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