「デジタイゼーションではなくデジタライゼーションが重要」――シーメンス:製造業IoT
シーメンスは同社の事業戦略とデジタライゼーションへの取り組みや有効性について、FMC、キャロウェイ、デルの例を挙げて説明した。
シーメンスは2017年6月9日、同社の事業戦略とデジタライゼーション(Digitalization、ビジネスにおけるデジタル化)への取り組みに関して記者発表会を開催した。シーメンスPLMソフトウェア グローバルセールス、マーケティング、サービス担当エグゼクティブ・バイスプレジデント ロバート・ウェイン・ジョーンズ氏が登壇し、同社顧客によるデジタライゼーションの3事例を示しながら、同社における事業戦略について語った。
フォードのCEOはなぜ退任したのか
「デジタライゼーションやデジタル技術は世界中において全ての企業を変革させている、もしくは創造的破壊を引き起こしている」とジョーンズ氏は講演冒頭で述べ、その自動車産業の一例として、2017年5月のフォード社長兼CEO マーク・フィールズ氏の退任について述べた。「フォードはデジタルによる変革を十分に早く進めていないという懸念があったためCEOを解雇している」(ジョーンズ氏)。
次にジョーンズ氏はアクセンチュア CEOのピエール・ナンテルム氏の言葉を引用した。「2000年以降、フォーチュン500社の半数以上が消えた主な原因は、“デジタル”にある」。アナリストはこのようなトレンドは今後も続き、現在のフォーチュン500社も、10年後に生き延びているのはそのうち半数以下だと見ているという。
その一番の理由として、同氏は「各企業ともデジタル技術を適用するための努力は進めているものの、自分たちのビジネス全体、あるいは業界全体の変革を起こすためにデジタルを中心的な戦略として捉えていないこと」を挙げた。「典型的パターンとしては、企業としてデジタル技術を採用するのは、今現在こなしている主な作業を自動化するため、サイロ状態で進めている作業をデジタル化するだけ。デジタルの力がイノベーションのプロセス全体、製品ライフサイクル全体に対してどんなインパクトを与えることが可能なのかを理解していない」。多くの企業が取り組んでいるのが、単なる「デジタイゼーション」(Digitaization、デジタル変換)であるとジョーンズ氏は言う。
イノベーションプロセスにおいて、デジタル変革に影響を及ぼす技術として、ジョーンズ氏は以下を挙げた。
- アイデアを製品に変える方法の変革:ジェネレーティブデザイン(自己生成的なデザイン)、システムオブシステムズ(複数のシステムを1システムにする)、インテリジェントモデル
- 製品を実現する方法の変革:機械学習、積層造形、先進ロボット工学
- 製品を利用する方法を変革:クラウド、ナレッジの自動化、ビッグデータ分析
同社はこれらの技術に投資をし続けてきており、そこに関連する製品を提供することで、顧客の継続的なビジネス変革の支援ができるとしている。
シーメンスはこれまで、2012年11月に機械振動試験システムベンダーのLMS International、2015年12月にALMベンダーのポラリオン(Polarion)、2016年1月にCAEベンダーのCD-adapco、そして同年11月に同社はEDAベンダーのメンター・グラフィックス(Mentor Graphics)と、製造業におけるデジタル変革にかかわる技術を持つ企業を買収してきた。メンターの買収で、「イノベーション・プロセスの完全デジタル化に向けたビジョンが完成した」とジョーンズ氏は説明する(関連記事:シーメンスのメンター買収が象徴するIoT時代のM&A)。
同社製品によるデジタル変革が生み出す価値として、IoTなどのデジタル技術によりバーチャルとリアル(フィジカル)を結合し、それらを双子のようにデータ連動させる、「デジタルツイン」を挙げる。同社はデジタルツインを、製品の企画段階における「デジタルプロダクトツイン」、生産段階における「デジタルプロダクションツイン」、製品の実際の使用状況を表す「デジタルパフォーマンスツイン」の3つに分類している(関連記事:シーメンスが描く「クラウド製造サービス」、3つのデジタルツインも訴求)。
創造的破壊を引き起こした、デジタルツイン3事例
ジョーンズ氏はデジタルツインを活用して「業界における創造的破壊」を引き起こした、同社顧客3社を紹介した。
1社は石油サービス大手のFMCだ。同社は3D CAD/CAM/CAE「NX」と複合領域最適化ツールの「HEEDS」(CD-adapcoの技術。もともとはRed Cedar Technologyの技術だった)を用いて、石油プラットフォームの設備設計において設計最適化を自動化したことで、従来、9日間の中で5回しかできなかった反復設計が、3日間で300回の反復設計(仮想環境でのシミュレーション)がこなせるようになったという。「従来のような水上ではなく海底での作業を実現させるための設備であり、『水圧の考慮』というあらたなチャレンジが必要だった」(ジョーンズ氏)。HEEDSは自己学習型探査のアルゴリズム「SHERPA」を備え、自己学習しながら設計探査が可能なため、設定が簡素化されていることが特長だ。
次に、NXと、PLM「Teamcenter」のユーザーであるキャロウェイゴルフによるプロトタイプ(試作)の例を挙げた。同社ではこれまで2年以上かかっていたゴルフクラブの設計開発が10カ月以下に短縮できたという。またNXの「プッシュボタン」という手法で、1日でゴルフクラブのプロトタイプが製作可能だという。「例えば、ツアー中のプロのゴルフ選手が、週の半ばで自分のゴルフクラブが気にいらないと思っても、翌日までには形状修正して、週末の大会までに新しいクラブを調達することが可能」(ジョーンズ氏)。同社は、従来プロセスと比較して2.5倍の反復設計が可能になり、設計期間も大幅に短縮できたという。
さらに挙げたのが、ビッグデータ解析システム「Omneo」を活用したデルの例だ。同社は、ビッグデータ解析で過去に蓄積した何百件ものデータを洗い出し、エラー発生における隠れたパターンを発見させることで、ファームウェアのトラブルの原因を特定するまでの日数が15日から3日に短縮できたということだ。
上記事例のように、顧客のデジタライゼーションを加速させるべく、同社では引き続き、デジタル・エンタープライズ向けの製品を拡大していくとしている。
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