HEV用の超小型SiCインバーター、体積で従来比50%削減を実現:車載半導体
三菱電機は、HEV用の超小型SiCインバーターを開発。フルSiCパワー半導体モジュールの採用と放熱構造の工夫により体積で従来比50%低減を実現した。
三菱電機では2017年5月24日、研究成果披露会を開催し、同年3月に発表した「HEV(ハイブリッド自動車)用超小型SiCインバーター」を披露。実現した技術的なポイントについて紹介した。
フルSiCパワー半導体モジュールの放熱構造を工夫
今回三菱電機が開発したのは、フルSiCパワー半導体モジュールと高放熱構造の採用で、体積5l(リットル)を実現した「HEV用超小型SiCインバーター」である。
フルSiCパワー半導体モジュールを採用したことで、低損失化を実現し、スイッチングロスを大幅に低減することに成功。インバーターの小型化とHEVの燃費向上を実現した。
さらに発生する熱に対応するために、パワー半導体モジュールと冷却器をはんだで直接接続する高放熱構造を採用。従来のグリス接続モジュールに対しはんだ接続モジュールは43%低熱抵抗化できるため、放熱効率を高めることができ、インバーター全体のサイズを小型化することが可能になったという。
これらの効果で、従来比50%減で、世界最小クラスとなる体積5lのサイズに収めることに成功。さらに、電力密度は世界最高レベルの86kVA/Lを達成した。
今後は、量産化に向けた開発を進め、2021年度以降に事業化を進める方針である。担当者は「研究開発レベルでの実証には成功しており、長期信頼性なども確保できた。ただ、はんだで直接パワー半導体モジュールと冷却器をつなぐ構造など、量産を考えた場合に、効率や信頼性の問題でクリアしなければならない課題は数多く残っている。こうした課題の解決に更に取り組んでいく」と述べている。
SiCパワー半導体は鉄道などで採用が進んでいるが今後、電気自動車(EV)やHEVでの採用が加速する見込みだ。一方で、限定された車室空間の有効活用と燃費向上などに向けて、電動化関連機器の小型化、軽量化が求められており、新開発のSiCインバーターは「こうしたニーズに合致する技術である」(担当者)としている。
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