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形にならぬ設計者の思いを可視化、マツダCX-5を洗練させた設計探査CAE事例(2/2 ページ)

多目的最適化は自動で最適な設計解を出してくれる――そういった思い込みはないだろうか。実際、あくまで設計支援の技術だが、その効果は幅広い。マツダの「モノ造り革新」の先陣を切ったCX-5の設計開発において最適化が採用されている。同社に最適化を最大限活用する方法や得られる効果、課題について聞いた。

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設計者の直感を見える化する

 設計探査は「設計者が持っているアイデアに根拠を与えるツールにもなる」と小平氏は述べる。「設計者は大抵、過去の失敗も含めたさまざまな経験を基に、次のクルマではこうしたらよいのではないかという仮説を持っています」。だが設計者はモデルを作りシミュレーションを回す技能まで持ち合わせているとは限らない。そのため仮説の根拠を示すことができず、マネジメント層や解析専任者を納得させるような説明が難しかった。

 だがマツダでは最適化を行うシステムを構築しているため、設計者は新しいCAEツールなどの使い方を覚えなくても最適化の作業を実施することができる。つまり、今まで設計者の頭の中にしかなかったアイデアの根拠を示し、周辺を説得する材料を得ることが可能である。実際に、最適化で得られた解を分析して導き出した最も性能のよい案が、設計者が経験から「こうした方がよいのではないか」と考えていた構造と一致することもよくあるという。

 さらに小平氏は、「最適化によって経験の伝承を効率よく行うことも可能」だと語る。「既に商品化された設計、つまり既に解のある問題を用いて、最適解にたどり着いた理由をしっかりと考察すれば、ベテランが経験によって得た知見を短期間で経験することも可能です」(小平氏)。実際に欧州では、商品化された設計に対してもう一度最適化を行い、弱点を見つけ、次の商品開発のアイデアを得る「最適化によるリバースエンジニアリング」を活用した人材育成も行われているという。

最適化は製品の「個性」を作り込むことが可能

 最近は商用やオープンソースの関連ソフトウェアも増えているため、設計探査の導入のハードルは下がっているという。ただし「ツールを導入するだけではうまくいかないことが多い」と小平氏は話す。その理由は、最初の定式化が難しいことによる。

 マツダであれば、走る歓びを示す「人馬一体の走り」を実現しようとする設計者の“形にならない思い”を、目的関数、設計変数、制約条件の3つに落とし込まなければならない。得られる解の集合は定義された式に依存するため、定式化がうまくいかなければ目指す性能は得られないからだ。成功するために必要なのは、「やはりコミュニケーション」だと小平氏は述べる。「設計者が思い描いていることは、実構造では何に当てはまるのかといった地道なすり合わせが欠かせません。この問題を作り上げる部分が、最も難しく、かつ成功のカギになるところです」(小平氏)。

 実は最適化の活用においては欧米が一歩進んでいる。この原因の1つは、日本人は与えられた問題を解くことに対しては力を発揮するが、逆方向の「問題を作り出す」ことについては苦手なことと関係がありそうだという。これは問題を解くことが主体の日本の教育とも関係があるのではないかと小平氏は指摘する。最適化アルゴリズムやシミュレーションの要素技術は世界レベルである一方で、最適化の導入がなかなか進まない原因もこの辺りにあるのではないかという。

解のよしあし自体が重要なのではない

 最適化によって得られた解の集合の分析からが設計者のセンスの生かされるところになるようだ。解の中の1点が設計者の発想を刺激し、新しいブレークスルーへとつながることも多いという。なお、その解自体は最も良い解である必要はない。「むしろ悪くても構わないのです。悪くなった情報にこそ、ブレークスルーのヒントがあるかもしれないからです」と小平氏は話す。設計者も、ただ最適解を受け入れるのではなく、新しいアイデアのヒントがないかという視点で見ているため、個性を持ったブレークスルーを生み出すことができるのではないかという。

 なお、解の集合に対してAIを用いることで、解の傾向をつかむことは将来可能になるかもしれない。だが「ブレークスルーへとつながるような解を見つけることは現状のAIでは難しいだろう」と小平氏。

 最適化は「自動で設計してくれる道具」ではない。だが設計の効率化やアイデア創出に役立ち、さらに図面に記録されない暗黙知の見える化やその伝達を助けるツールにもなりうる。必要な取り組みを把握した上で主体的に活用すれば、より良い製品作りに大きく貢献するだろう。

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