HILSを使ってECUをテストする(その1):いまさら聞けないHILS入門(9)(1/3 ページ)
車載システムの開発に不可欠なものとなっているHILSについて解説する本連載。今回から、HILSを用いてどのようにECUをテストするかについて説明していきます。まずは手動テストから紹介します。
前回は、HILSとコントローラーを接続して、正常に動作する状態を作り上げました。今回は、この中でECUをテストします。テストに必要な操作手順を1つずつ行う手動テストと、操作手順をプログラム化して自動的に行う自動テストがあります。今回は、手動テストを行います。
テスト項目
テスト内容に入る前に、そもそもHILSのテストで何をするのかを考えます。発電システムのECUに求められる機能として連載第1回に4つの項目を挙げました。これにアイドリングを加えた5つの機能についてのテスト内容を考えてみましょう(表1)。
ECU機能項目 | 内容 |
---|---|
起動制御機能 | 起動スイッチを押して、スターターがエンジンをクランキング回転数で回転させているところに、燃料を噴射するとともにプラグを点火することにより、エンジントルクを発生させて自立運転を開始する機能 |
アイドリング制御機能 | 自立運転開始後、コントロールスイッチで、発電運転周波数(50Hzまたは、60Hz)を選択するまでの間、アイドリング回転数を保持する機能 |
停止制御機能 | エンジン運転中に、停止ボタンを押すと、ECUは、燃料供給を断ち、トルクが無くなってエンジン回転を低下して停止させる機能 |
発電出力制御機能 | コントロールスイッチで、50Hz(または、60Hz)を選択すると、エンジン回転数3000rpm(3600rpm)で無負荷運転させる機能。ここで、電気負荷を接続して発電機負荷が生じると、噴射量を増加して負荷に応じるトルクを発生し、回転数を一定に保持する。負荷を変化しても、仕様範囲内であれば回転数3000rpmを保持する |
過渡性能 | 回転数3000rpmで一定負荷運転中に、突然無負荷状態になっても、エンジンや発電機が過回転で破損しないように回転数の増加を一定範囲を超えないように制御する機能 |
表1 発電機の機能項目 |
これらの機能のテストを行うためには、機能項目ごとに機能内容に沿った操作をして運転すると同時に、ECUの動作に見合う測定を行い、データを分析評価して、制御要件について適合性を評価することが課題となります。
ECUを組み込んだHILSシステムの操作は、連載第2回の図2の様なHILSコンピュータのUI(ユーザー インタフェース)を通じて行います。この図は、通常の運転を想定したもので、テストには十分とはいえません。HILSシステムは、比較的容易にUIを作り変えられるので、それぞれのテストに適したUI画面を作り上げ、テストごとに使い分けることにより効率良くテストできます。
起動時の動作
起動機能テストを考えるに当たって、まず、実機エンジンがどのように起動されるか、そこでECUが、どのように働いているかを考えてみます(表2)。
Step | 人の操作 | ECU | プラント | 備考 |
---|---|---|---|---|
1 | システム電源オン | ECU動作開始 (センサー/アクチュエータチェック、起動待機状態) |
エンジン、発電機は、ともに停止状態 | − |
2 | 起動スイッチオン | 起動スイッチオンを検出 | (スターターがオンして)エンジンが、クランキング回転を始める | スターターは定義していないので、エンジン回転数を強制的に変化させる |
3 | − | スロットル開度調節 燃料ポンプオン |
スロットル開度が変化して始動開度となる 噴射可能の燃料圧を発生 |
− |
4 | − | 始動エンジン回転数を検出(100rpm) | (スターターにより)エンジン回転数は200rpmまで上昇 | エンジンがトルクを発生するまでは、200rpmで回転 |
5 | − | インジェクターパルス出力 イグニッションパルス出力 |
エンジン燃焼開始、トルク発生、自立運転開始 | − |
6 | − | エンジン回転上昇を検出 | アイドリング回転数に向けて回転数上昇 | − |
7 | 起動スイッチオン終了 | − | − | スターター切離し停止(以降エンジントルクが無くなるとエンジンは停止する) |
8 | − | アイドリング制御開始(スロットル、噴射量調節) | アイドリング回転数で回転数保持 | − |
表2 エンジン起動時の操作とシステムの動作 |
テストの目的は、ECUの機能を検証することです。それぞれの段階でECUの制御要件(ECUが果たすべき役割)を明確にし、制御要件に対してECUが適切に動作していることを電気信号や物理量を測定して確認します。さらに、モニター装置を使ってECUの内部変数を同時に測定できれば、より確実に検証することが可能です。
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