HILSにプラントモデルを組み込む:いまさら聞けないHILS入門(8)(1/3 ページ)
車載システムの開発に不可欠なものとなっているHILSについて解説する本連載。今回は、エンジンと発電機のプラントモデルをHILSシステムの中に組み込んで、実機と同じように動かすための手順を説明します。
HILSシステムの中にプラントモデルを組み込む
自作でも、購入品でも、プラントモデルができたらHILSシステムに組み込んで、期待通りに動作することを確認します。その手順は、実機と似ています。実機では、エンジンは機能確認済みの部品を組み立てて試運転したのち発電機全体を組み込みます。次に電気配線の接続確認や配管のエア抜きをして、最後にシステムを動作させます。
HILSでは、まずサブプラントモデルを個別に機能確認してから、サブプラントモデルを順次接続し、次にプラントモデル全体の動作確認を行います。並行して、ECUとHILSを接続するインタフェース回路の機能確認を行い、プラントモデルとインタフェースの信号接続と、インタフェースの端子とECU端子の実配線を行います。最後にシステム全体の動作を確認します。
インタフェースの信号変換回路の確認
プラントモデルとECUを接続するインタフェースは、連載第3回の「HILSとセンサー」や連載第4回の「HILSとアクチュエータ」で説明した、HILSの入出力回路とセンサー・アクチュエータに必要なデータに変換するロジックからなります。
インタフェース機能確認の基本となる考え方は、センサーについては、HILS内部でセンサー信号値を定数や単純な関数で作成してHILS出力回路に入力し、対応する電気信号がHILS出力端子から出力されていることを確認します。アクチュエータについては、ECUの制御出力信号と同等の電気信号を外部の信号発生装置で発生してHILS入力端子に接続し、対応するデジタル信号値にHILS内部で正しく変換されていることを確認します。
センサーインタフェース
表1にセンサーインタフェースのHILS側から入力されるデジタル値と、HILS外部に出力される電気信号を示します。
センサー | HILSモデルからの入力 | HILS端子からの出力 | 測定器 |
---|---|---|---|
起動・停止スイッチ | オン/オフ(1/0) | 0V/12V信号 | 電圧計 |
コントロールスイッチ | |||
オイルプレッシャースイッチ | |||
スロットルセンサー | スロットルバルブ開度(全閉0deg.〜全開90deg.) | スロットルセンサー電圧(0〜5V、連載第5回の図6参照) | 電圧計 |
水温センサー | 水温(−40〜110℃) | センサー電圧(4.9〜0.7V、連載第3回の図8参照) | 電圧計 |
回転センサー | 回転数(rpm) | 回転パルス信号(連載第3回の図5参照) | オシロスコープ |
上死点センサー※注) | 回転数(rpm) | 上死点パルス信号(図1) | オシロスコープ |
表1 HILSセンサーインタフェースの確認方法 |
※注)上死点センサーとは
上死点センサーは、これまでの説明で抜けていたので、この場で説明するとともにHILSシステムに追加します。
ECUのイグニッション機能や噴射機能は、各気筒の燃焼サイクルに同期して上死点を基準として動作します。そのために上死点センサーを設けて代表気筒の上死点を検出しています。
その一例を図1に示します。図1(a)に示す通常の回転センサーに対して、上死点センサーは、クランク軸の2回転ごとに1回転するカム軸に設置した、上死点に当たる箇所に1枚だけの歯を有する上死点パルスリングを用います。この歯がセンサーコイルを通過すると図1(b)の様な波形を生じます。この波形のタイミングを検出することにより上死点を検出します。
精密なエンジンプラントモデルでは、この上死点信号を基準として、ピストン位置、吸排気ガスの流れ、燃焼室の温度圧力などの状態をクランク角度ごとに計算します。一方、本編のような簡易プラントモデルでは、HILSサイクルタイムごとに燃料噴射量やエンジントルクなどの状態をサイクルの平均値として計算するので、モデル自体は上死点情報を必要としません。
これに対してECUは、上死点タイミングがなければイグニッションや燃料噴射のタイミングを決められず動作できません。このため、HILSから上死点信号を発生してECUに与えることが必須となります。
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