HILSとは何か:いまさら聞けないHILS入門(1)(2/4 ページ)
最新の高級自動車は200個ものコンピュータを搭載しているといわれる。ECU(電子制御ユニット)と呼ばれるこのコンピュータが、正しく動作するかどうかを試験するテスト装置として注目を集めているのがHILSだ。本連載では、HILSの導入や、HILSを使ってECUのテストを行うための基本的な知識の提供を目指す。連載第1回は「HILSとは何か」だ。
ECUが制御するシステムを考えよう
HILSを考える前に、ECUが制御するシステムを考えてみましょう。簡単に理解できるように、ここではエンジンと発電機が直接つながる図3のエンジン/発電機システムを考えることにします。
エンジンは、燃料供給量を制御することにより出力を加減できる装置です。エンジンの燃料供給量を制御する装置とは、スロットルバルブや燃料噴射装置のことを指します。ここでは細かいことは後回しにして、燃料レバーを操作することによりエンジントルクがゼロ〜最大値まで加減できる装置と理解してください。
エンジンがトルクを発生して、負荷の発電機を一定回転数で回転させる場合の力学を考えます(図4)。
エンジン回転数が一定の状態とは、エンジントルクと負荷トルクが釣り合っている状態です。エンジントルクは、エンジンが発生する回転力です。負荷トルクは、負荷が回転を止めようとする力です。何も仕事をしていない場合は、回転摩擦力が働きます。エンジントルクが負荷トルクを上回ると、余剰のトルクによってエンジンと負荷の回転数が増加します。回転数の増加は余剰トルクに比例し、回転運動の運動方程式で表すことが出来ます。
Te−Tl=I×dω/dt
ただし、Teはエンジントルク(Torque Engine)、Tlは負荷トルク(Torque Load)、Iはエンジンと負荷の慣性モーメントの和、ωは回転速度で、dω/dtは回転加速度です。
制御とは何?
この装置を回転数一定で運転することを考えます。
エンジン回転数が目標値より低い場合は燃料レバーを燃料を増やす方向に動かし、エンジン回転数が高い場合には燃料を減らす方向に動かします。回転数計を凝視して数rpm程度の回転変化を見分け、頻繁に細かく燃料レバーを動かして回転数を調節することになります。
この操作を上手く行うには熟練が必要です。いきなり実際のエンジンを操作すると少しレバーを動かすだけでエンジン回転数が大きく変化します。油断するとエンジンが止まったり、逆に回転数が上がり過ぎたりして、エンジンや発電機が壊れてしまうかもしれません。回転数一定の制御をするには、熟練した操作員が1人、かかりきりで操作する必要があります。
もし、人に代わって操作をしてくれる装置が有れば、操作員は目標回転数を設定し、後は装置に任せておけば、一定回転の運転が可能となります。このような装置のことを回転制御装置と呼び、ECUはマイクロコンピュータと電子技術によってこの課題を実現するものです。ECUはエンジンの回転数を見張って、燃料レバーを増減してくれます。発電システムのECUに求められる基本的な制御機能/性能要件には、以下の項目が考えられます。
- 起動機能
- 停止機能
- 発電出力制御機能
- エンジンが発電機を回転させて電力を発生すること。発電電力は、出力1000wとする
- 一定電圧/一定周波数(AC100V/50Hzと60Hz選択可能)の交流を発電すること。電力は0〜1000Wまで変化できること
- 過渡性能
- 発電電力が変化しても、電圧、周波数の変化が少なく一定時間内に収束すること。そのため、エンジン回転数変化が一定値以下であること
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