想像する内容を脳波リズムの位相差が切り替え:医療技術ニュース
筑波大学、北海道大学、九州大学は、ヒトが脳内でイメージを操作する際、異なる周波数の脳波リズムの位相差が情報の振り分けを行っていることを、脳波データ解析と数値シミュレーションを用いて発見した。
筑波大学は2017年3月13日、ヒトが脳内でイメージを操作する際、シータ波とアルファ波という異なる周波数の脳波リズムの位相差が情報を振り分けていることを、脳波データ解析と数値シミュレーションを用いて発見したと発表した。同大学の川崎真弘助教授、北海道大学の秋山正和助教授、九州大学の手老篤史准教授、東北大学の西浦廉政教授、理化学研究所の山口陽子チームリーダーらの研究グループによるもので、成果は同月7日付で英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
ヒトがさまざまな状況下で必要な情報を柔軟に選択し、思考することを作業記憶と呼ぶ。今回の研究では、視覚と聴覚の作業記憶課題をしているときの脳波測定実験を行い、両課題時の脳波解析結果を比較検討した。課題は、視覚および聴覚によって提示されたものを記憶し、頭の中で繰り返しイメージ操作、または数字の足し算をするというもの。実験には14名の健常者が参加した。
この実験で得られた脳波データの解析結果から、どちらの課題でも前頭のシータ波とアルファ波の位相が同期することが分かった。さらに、想像する内容が視覚か聴覚かによって、シータ波とアルファ波の位相関係が異なっていた。
この位相差の意味を検証するため、シータ波とアルファ波の振動数比に着目し、位相振動子を用いた数理モデルを作成。シータ波とアルファ波は2つの作業記憶課題時に位相差を持つが、数理モデルではそれらを簡単化し、三角関数の波として入力信号とした。入力信号は数理モデル内の位相振動子の働きによって、増幅したり変調されたりする。その際、特定の位相差が入力された場合にのみ、内部の状態変数が励起されることが分かった。
さらに数理的な解析をしたところ、この励起は三角関数の直行関係からある程度説明ができることが分かった。また、さまざまな被験者のデータを統計的に処理したところ、シータ波とアルファ波の関係をマップにした実験結果と、今回の数理モデルによる理論曲線が、定性的に一致した。
これらにより実験と理論の両面から、2つの作業記憶課題時における位相差は作業記憶課題時に重要な働きをしていることが理解できた。今後、このようなヒトの脳活動から検証された振動子モデルを用いた、柔軟に思考を切り替えられる脳型コンピュータの開発が期待されるとしている。また、認知脳活動として説明することがこれまで困難だった症例などの原因解明につながる可能性もあるという。
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