トランプ政権下で注目される米国保健医療行政のIT戦略計画:海外医療技術トレンド(23)(2/2 ページ)
2015年7月に掲載した連載第1回では、米国のヘルスIT戦略計画を取り上げた。2016年11月からトランプ政権が発足したが、これに合わせてあらためて米国の医療業界を所管する行政サイドのIT戦略を見ていこう。
喫緊のIT課題はサイバーセキュリティとプライバシー
同計画では、戦略目標として「ヘルスケアの強化」(科学知識とイノベーションの促進、米国の人々の健康/安全/幸福の促進、HHSのプログラムの効率/透明性/責任/効果の確保)を掲げている。また、ITのミッションとして、HHSのITリソースとサービスを提供し、共通のソリューションを活用し、部課レベルのITを可能にする部門を通してセキュアなインフラストラクチャを提供することによって、支援するプログラムにおける個別のミッションの要求事項に注力することを掲げている。
その上で、HHSのIT原則として、以下の5つを示している。
- イノベーション
- 顧客/ユーザーエクスペリエンスへの注力
- 情報の品質と可用性
- 有効性
- 価値
そして、以下のような具体的戦略目標を掲げている。
- 目標1:IT要員(技術を可能にする要員を獲得、配置、維持する)
- 目標 1.1:能力および能力の要件を特定/定義し、人員配置を予測してIT採用を効果的に計画する
- 目標 1.2:ITプロフェッショナルのための職員募集、人員配置、新人研修プロセスを簡素化する
- 目標 1.3:HHSをIT人材が選択する企業としてブランド化する
- 目標 1.4:技術要員を開発、保持する
- 目標 1.5:非IT人材のためのIT教育とアウトリーチプログラムを拡張する
- 目標2:サイバーセキュリティとプライバシー(重要なシステムとデータを保護する)
- 目標 2.1:データと情報システムのセキュリティとプライバシーの状態を改善する
- 目標 2.2:新たな脅威や脆弱性を効果的に予防し、モニタリングして、迅速に対応する
- 目標 2.3:リスクベースのアプローチを通してサイバーセキュリティ投資を優先する
- 目標3:シェアードサービス(ビジネスシステムとサービスを共有することによって、ミッションを達成する能力を最適化する)
- 目標 3.1:エンタープライズフレームワークの開発/導入を通して、シェアードサービスに対する共通の理解を確実にする
- 目標 3.2:エンタープライズフレームワークを通して、サービス費用と品質のバランスを取りながら価値を最大化する
- 目標 3.3:より効率的で費用対効果のあるIT製品およびサービスの準備のために、戦略的ソーシングまたはその他の調達手段を推進する
- 目標4:相互運用性とユーザビリティ(ユーザビリティ、相互運用性、データ共有と統合を促進する)
- 目標 4.1:HHS全体でデータの管理とガバナンスを改善する
- 目標 4.2:HHS全体で相互運用性のあるデータ交換を促進する
- 目標 4.3:システムとデータのユーザビリティとアクセシビリティの改善により、ユーザーのエンゲージメントを拡張する
- 目標5:IT管理(IT管理とガバナンスを成熟化して、IT投資と調達の管理責任を改善する)
- 目標 5.1:IT投資と調達を先導するための管理とガバナンスのプロセスを最新化して、新たな法令および政府全体にわたる政策的要求事項を反映させる
- 目標 5.2:有効なプログラムとプロジェクトマネジメントを通して、ITサービス提供を成熟化する
- 目標 5.3:報告プロセスの簡素化により、ミッション提供に一層注力することを可能にする
従来のHHSのIT投資実績の傾向と比較して、今回のIT投資戦略計画で注目されるのは、サイバーセキュリティとプライバシー対策である。
折しも、与党の共和党が医療保険制度改革法(オバマケア)の代替法案を撤回したり、連邦捜査局(FBI)が医療情報を標的にしたサイバー犯罪への注意喚起(関連情報)を行ったりするなど、HHSを取り巻く環境は変化している。その中で、どのような形でIT戦略を実行に移していくのか注目される。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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