IT×OTだけではない、日立のIoTを支える構造改革の経験:製造業×IoT キーマンインタビュー(3/3 ページ)
IoTによるビジネス変革が進む中、高い総合力を生かし新たなチャンスをつかもうとしているのが日立製作所である。同社のIoTへの取り組みと現状について、日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部長の阿部淳氏に話を聞いた。
痛みを伴った多くの事業改革がもたらしたもの
MONOist IoTにおいては成功の形が見えないため、自社導入を進め、その事例を公開するようなケースも多いと思います。その中でなぜ日立が選ばれると考えますか。
阿部氏 1つには先ほど述べた事業の多様性がある。そして、もう1つが既に多くの事業改革を行ってきたためそのノウハウが経験知として蓄積されているという点だ。
日立グループではリーマンショック後に過去最大の赤字を計上したことを受け、2011年から5カ年計画で「Hitachi Smart Transformation Project(日立スマートトランスフォーメーションプロジェクト)」を実施してきた。「グループ全体のコスト構造を最適化する」ことを目指し、各事業体で抜本的な事業改革を進めてきた。
日立グループ内で課題解決のために取り組み、その中でIoTやデータ分析などを活用した事例などを積み上げてきた。その中では多くの失敗も生まれたが、検証を重ねて成果を生み出す勘所などをつかんだケースもあった。各事業体でこうしたノウハウを抱えているからこそ、実践的なIoTのモデルケースを作ることができる。こうした取り組みでは、痛みを伴うような事業改革もあったが、その中で生まれてきたノウハウや知見がたくさんあったことが現在につながっている。
例えば、大みか事業所でもHitachi Smart Transformation Projectを通じてさまざまなノウハウを獲得している。約8万個のRFIDタグを活用し、工程の見える化によるムダを排除する「RFID生産監視システム」を開発し、各工程の進捗を把握し、遅延が発生した工程の対策を検討できるようにしてきた。さらに、人手による生産工程ではカメラを活用した「作業改善支援システム」を用意し、画像分析により生産の問題点を可視化してきた。蓄積された改善結果は「モジュラー設計システム」を通じて製品設計に反映する。これら3つのシステムから得られる生産実績データと納期の情報をもとにした「工場シミュレーター」で最適な運営を行うという仕組みだ。結果として制御装置における代表製品の生産リードタイムを50%削減するような実績も出ている。
誤解を恐れずにいえば、ユーザーはある意味でITやOTではなく「日立が試行錯誤した結果、得られた成功体験」を使いたいと考えている。個々の技術だけではなく、こうしたナレッジを含めて提供できることに最大の価値がある。そういう領域は、どの企業もまねできるものではなく差別化の要素といえる。
ITの領域は変革のスピードが速い。一方で、OTの領域は導入した設備を長く使いこなす現場なりの事情がある。ここをうまくつなぎIoTで顧客価値をつくることが私たちの大きな挑戦だ。
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