IoTの活用が期待される自動車産業、新興国が再びけん引役に:IHS Industrial IoT Insight(4)(4/4 ページ)
今後の製造業の発展に向けて必要不可欠とみられているIoT(モノのインターネット)。本連載では、IoTの現在地を確認するとともに、産業別のIoT活用の方向性を提示していく。第4回は、IoTの活用が期待されている自動車産業について、主要各国市場の動向について説明する。
明るい兆しが見え始めたタイとインドネシア
南米ブラジル市場は、資源価格の低迷、通貨安と物価高により消費マインドが下がっていることが経済のリスク要因となっている。しかし、2017年からようやく市場も回復基調となり、中長期的には原油価格の持ち直しや主要生産品である鉱物、バイオ燃料原料などの商品市況の回復により潜在的成長力が顕在化することで市場は緩やかに回復に向かうとみている。
ASEAN市場の主要2大市場であるタイとインドネシアについては、ここ数年での停滞傾向から明るい兆しが見え始めた。タイ市場に関しては、2018年初頭に向けた総選挙を踏まえ市場は上向き、政府による大規模メガインフラプロジェクトの投資にけん引され経済は長期的に成長傾向となるとみている。2012年に実施した初めての自動車購入者に対する5年間の買い替え禁止拘束期間が2017年には終了することは需要の上向き材料になる。いわゆる政府主導のエコカープロジェクトや、電気自動車プログラム導入により新たに電気自動車(EV)の生産拠点としての役割も担うことになり、投資を引き出すことで自動車産業自体も拡大を目指すだろう。一方で下振れリスクとして考えられるのは政治不安であり、総選挙の実施時期の延期により企業の設備投資が遅れる可能性である。
インドネシアについても、金利の引き下げが経済環境の好転を後押ししており、同時に政府主導のインフラプロジェクトや社会開発事業の拡大が産業全体へ好循環となって景気回復へと導かれる。消費者の所得の増大に伴い、初めて乗用車を購入する層が手ごろな価格のLCGC(ローコストグリーンカー)かつ現地で人気の7人乗りMPVを購入して好調を支える。中国経済に左右される面もあるが、輸出の拡大も販売成長への原動力となるであろう。政府の政策では、国内や海外からの投資活用によって、新たな経済のけん引力の引き上げを狙っている。
ベトナム、フィリピンなどASEAN域内主要国以外での成長も期待されており、高い潜在力を有しているといえる。
このように、持続可能な成長段階としての新興国市場回帰の可能性が期待される。その中で、有意な市場であるという価値を確保したいと考えている日米欧などの成熟市場は、IoTの力を借りつつ、さまざま々な規制の強化や政府政策のアメとムチを活用し、困難に対応しながら技術革新を進めていくことで、新たな市場創出と付加価値の追求で自動車産業における厳しい競争の中での生き残りが可能となるであろう。
プロフィール
川野 義昭(かわの よしあき) IHS Markit Automotive 日本・韓国ビークル・セールス・フォーキャスト マネージャー
2002年シアトル大学経営大学院修了後、自動車専門の民間消費者調査会社を経て08年csm ワールドワイド(現IHSオートモーティブ)入社。一貫して車両販売における市場動向の調査、分析・需要予測を担当。
所属学会:産業学会、日本エネルギー学会、行動経済学会、交通工学研究会、日本マーケティング学会、日本統計学会、応用経済時系列研究会など
https://www.ihsjapan.co.jp/
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