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狙った臓器で金属触媒反応を起こすことに成功医療技術ニュース

理化学研究所は、マウス体内の狙った臓器で、選択的に金属触媒による有機反応を起こすことに成功した。疾患部位で直接、生理活性分子を合成できるため、副作用など従来の問題を解決し、体内での有機反応による創薬研究に貢献する。

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 理化学研究所は2017年2月15日、マウス体内の狙った臓器で、選択的に金属触媒による有機反応を起こすことに成功したと発表した。同研究所田中生体機能合成化学研究室の田中克典准主任研究員らの国際共同研究グループによるもので、成果は独科学誌「Angewandte Chemie International Edition」電子版に掲載された。

 田中准主任研究員らは、これまでの研究で糖鎖クラスタが30分程度で臓器へ到達すること、また、3価の金触媒(Au3+)の存在下で、プロパルギルエステルが生体内のさまざまなアミンと反応して、30分以内にアミド化合物が生成されることを見いだした。

 今回、同研究グループは、糖鎖クラスタを3価の金触媒の「運び屋」として利用し、狙った臓器で金触媒アミド化反応を起こすことを試みた。まず、末端にシアル酸あるいはガラクトースを持つ糖鎖クラスタに金触媒を付けた「金の運び屋」を合成した。これらをマウスに静脈注射したところ、体内で金触媒の活性を落とすことなく、30分以内に肝臓と腸管の表面に到達し、金触媒を植え付けることができた。

 次に、蛍光基を持つプロパルギルエステルを静脈注射した。プロパルギルエステルは血液中を通って体全体を巡り、肝臓、腸管に到達した時に、先に植え付けていた金触媒と反応して、臓器表面にあるアミノ基との間で金触媒アミド化反応を起こした。これにより、狙った臓器を蛍光で標識できることが確認された。

 同手法を用いれば、疾患部位で直接、薬などの生理活性分子を効率的に合成でき、薬が疾患部位以外で作用して起こる副作用や、体内での化合物の安定性などの従来の問題を解決できる。さらには体内での有機反応による創薬研究の進展にもつながる。

 有機合成化学の分野では、薬や機能性材料など、さまざまな分子を自在に合成するために、これまで多くの金属触媒が開発されてきた。しかし体内では、水、血清、細胞など多くの分子が混在するため、金属触媒は活性を失い、反応を進めることが困難だった。

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糖鎖クラスタによる金属触媒の運び屋と3価の金触媒によるアミド化反応
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金触媒アミド化反応による肝臓や腸管への選択的な蛍光標識
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肝臓や腸管での選択的な金触媒アミド化反応による蛍光標識の生体内イメージング

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