検索
連載

IoT社会の到来で世界は変わるIHS Industrial IoT Insight(3)(2/2 ページ)

今後の製造業の発展に向けて必要不可欠とみられているIoT(モノのインターネット)。本連載では、IoTの現在地を確認するとともに、産業別のIoT活用の方向性を提示していく。第3回は、エレクトロニクス産業の新たなけん引役としてのIoTにスポットを当て、その背景にあるメガトレンドや、関連する各国/産業分野の規制について解説する。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

メガトレンドが引き起こすエレクトロニクス需要は規制が創出する

 PC、デジタル家電、スマートフォンなど、これまでの電子機器は、個人の生産効率向上や所得向上により需要が立ち上がったが、IoTは全く別な普及の仕方をすると予想している。スマート社会がPCやスマホのように急激に立ち上がるとは考えにくい。

 しかし、メガトレンドが引き起す問題は早期に解決しなければならない。このため、主要各国は、IoTを立ち上げるための規制導入を計画している。

欧州

 欧州で代表的な政策に「Europe2020」がある。気候変動・エネルギー問題に対する取り組みとしてEU(欧州連合)は、

  1. 2020年までに温室効果ガスを90年比で20%削減する
  2. 最終エネルギー消費のうち、再生可能エネルギーの比率を20年までに20%に引き上げる
  3. (一次)エネルギー消費を20年までに20%削減する

という「3つの20%」の目標に取り組んでいる。これらを達成するためにさまざまな規制を導入してスマート社会を立ち上げる必要がある。

インド

 世界第3位のエネルギー消費国であるインドは2020 年までに温室効果ガス排出量を2005年比で20〜25%削減するという自主目標を表明している。

中国

 そしてエネルギー消費、温室効果ガス排出量が世界一の中国は、建前と本音を使い分けている。中国は「大気中に存在する温室効果ガスの70〜80%は先進国が発生源で、これが気候変動を招いた」として、先進国は中国を含む発展途上国に対して技術移転、資金援助を提供するよう求めている。これが建前だ。

 しかし本音としては、自国の環境破壊が予想以上に進んでいるために積極的に省エネ規制の導入を始めている。

 中国における記憶に新しい規制としては、2010年からGB1級省エネエアコンに500元の補助金を付けるなどの農村振興策「家電下郷」や買替補助策「以旧換新」などがあった。これにより2008年には10%以下だったインバータエアコンの普及が2012年にはいきなり40%を超えたのである。

産業用モーターの省エネ規制

 ここからは応用分野での規制について紹介しよう。

 産業分野で有名な規制として、産業用モーターの省エネルギー基準に関する「IE3」がある。欧米などで既に導入されている規制で、日本ではようやく2015年に導入された。中国では既に2011年に導入されており、IE3に対応するためにインバータの普及が加速している。

 日本では産業用モーターが消費する電力は全電力の60%近くになるが、インバータ付モーターの普及率は10%台と低い。インバータ無しと有りとでは。消費電力に30〜40%の違いが出てくるため、この規制は大きな意味を持つ。そしてIE3よりさらに厳しい「IE4」基準が導入されれば、インダストリー4.0のような、工場全体やサプライチェーン全体のエネルギー効率を考える必要が出てくるため、まさにIoTの導入が必要になってくるだろう。

 IHSではエネルギー削減に関する規制が今後ますます増加してくると予想している。そして、IoTの成長にそれら規制が大きな影響を及ぼすと見ている。

インフラ監視システム

 高成長が期待されているインフラ監視システムもIoTである。日本では2015年から10年かけて日本全土の橋梁やトンネルに監視システムを導入して保守点検費用を削減しようとしている。中国でも同様なことが政府の計画に盛り込まれている。

 これまでもインフラ関連では規制による市場創出が定番になっているが、IoT導入でも規制強化による市場創出がますます活発になってきている。

自動運転

 自動運転に必要な車車間通信も米国では義務化の動きが進んでいる。自動運転は事故の低減や交通渋滞緩和、通勤時間の有効利用など多くのメリットがある。また、自動運転技術の軍事など他の分野への活用も期待されている。

医療

 医療分野でのIoTも規制による成長が期待される分野だ。先進国では健康保険制度が崩壊しつつある。これは高齢化に伴って医療費増加が健康保険制度を赤字体質に追い込んでいるからだ。先進国ではこれ以上多くの高齢者が病院に押し掛けると保険制度が回らなくなる危険な状態にある。

 仮に、ウェアラブル機器によるパーソナル医療が現実のものになり、日々の健康管理を行えば保険料が下がるなどのメリットを打ち出せれば、治療から予防へ医療を変革させ医療費削減を実現できると想定されているのだ。

プロフィール

photo

南川 明(みなみかわ あきら) IHS Markit テクノロジー 日本調査部ディレクター

1982年からモトローラ/HongKong Motorola Marketing specialistに勤務後、1990年ガートナー ジャパン データクエストに移籍、半導体産業分析部のシニアアナリストとして活躍。その後、IDC Japan、WestLB証券会社、クレディーリヨネ証券会社にて、一貫して半導体産業や電子産業の分析に従事してきた。2004年には独立調査会社のデータガレージを設立、2006年に米iSuppli社と合併、2010年のIHSグローバル社との合併に伴って現職。JEITAでは10年以上に渡り,世界の電子機器と半導体中長期展望委員会の中心アナリストとして従事する。定期的に台湾主催の半導体シンポジウムで講演を行うなど、アジアでの調査・コンサルティングを強化してきた。

IHS Markit Technology
https://www.ihsjapan.co.jp/

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る