国際標準となったCHAdeMOのジレンマ、高出力化とコストの兼ね合い:和田憲一郎の電動化新時代!(23)(3/3 ページ)
急速充電の規格として国際標準となったCHAdeMO規格が、ここにきて大幅に使用電流値を上げるなど仕様のバージョンアップを考えているようだ。なぜ、この段階で仕様の大幅に変更するのか。その背景や他規格との連携、課題などについてCHAdeMO協議会関係者からヒアリングを行った。
急速充電器のコストへの影響は
和田氏 ここまで電流値を上げたバージョンアップとなると、急速充電器のコストにも影響するのではないか。
吉田氏 まだ仕様書を取りまとめている段階にあり、急速充電器メーカーからコストに対する影響の声は届いていない。ケーブルなど形状も大きくなるため、コストも上がるであろう。この仕様の特長からして、これまで30〜50kWレベルを製造していた全ての急速充電器メーカーが参入するとは考えにくい。
また、販売数がそう出ないのであれば、ラインで生産するのではなく、手組みとなるのではないか。部品単価や組み立てなども考えると、特注に近い形になると予想される。急速充電器へのコストははっきりとはまだ分からないが、かなり高くなるであろう。
和田氏 これまでの話を聞いていると、影響が大きく本当に仕様変更が必要なのか疑問だ。例えば、EVでは電池の高性能化、価格低下によって一充電当たりの走行距離が400〜500kmの能力が当たり前の世界が予想されるが、それによってユーザーの1日の平均運転距離が倍になるとは限らない。さらに、クルマを2〜3時間も運転すれば休憩することが多く、150kWで急速充電する必要性はどこまであるのであろうか。
吉田氏 CHAdeMO規格は、日本のみならずグローバルで利用される国際標準となっている。欧州など日本以外からEVの搭載電池が大容量化し、より短時間での充電に対する要望があるのであれば、対応できるよう準備することが期待されている。
ただ、そこには経済原理が働き、実際にそれを必要とするユーザーがどれくらいいるのか、また自動車メーカー、インフラ企業、急速充電器メーカーなどの考え方によって、どこにどのようなレベルの急速充電器が設置されていくのかが決まるのではないだろうか。
インタビューを終えて
急速充電の国際規格に異変が生じているようである。その理由として、2017年以降の第2世代のEVは、2010年代の第1世代に比べて走行距離を大幅に伸ばすため、大容量電池の搭載が予定されているためである。そのような大容量のEVに対し、充電出力を上げて短時間での充電をしたいとの要望が出てきた。
EVやPHEVの保有台数が増加するにつれて近年は、充電時間だけでなく待ち時間の短縮も課題になってきた。充電スポット1カ所あたりの急速充電器の設置数も重要になっており、2015年から急速充電器を設置開始した中国では、1カ所あたり10〜20基設置する例が多い。
今回、自動車メーカー主導で要望が出てきていることから、そのニーズは理解できる。一方、ユーザー側からすると、充電時間が短いことが望ましいが、そのために充電コストも高くなるのは困るであろう。また、当然ながら、既存のEVやPHEVに支障がないことが前提にもなる。インフラ設置企業や急速充電器メーカー側から見ると、機器が高額となるため、将来どれくらいの台数が普及するのか、事業性も含めて関心事であろう。
このように、CHAdeMO規格は国際標準となったことで、グローバル、かつ多様な要求に対応していかなければならないところにジレンマがある。
現時点では、EVとPHEVはまだ黎明期にあるが、今後どれくらいの走行距離、電池容量が必要かは、車両性能向上や充電インフラの数によって、おのずから適正幅に収束されてくると思われる。このため、今回の仕様バージョンアップについても、5年をめどに市場で方向性が出てくるのではないだろうか。
筆者紹介
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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