がんプレシジョン医療にAIを活用、治療率が6倍に:人工知能ニュース
がん研究会、がん研究所、FRONTEOヘルスケアは、最先端のゲノム解析技術とAI(人工知能)を用いて「がんプレシジョン医療」を実現するシステムの開発に向けた共同研究を開始する。現在、一般的で明確ながん治療法が当てはまらないがん患者の治療率は5%程度だが、共同研究により治療率を6倍の30%まで高められる可能性がある。
がん研究会、がん研究所、FRONTEOヘルスケアは2017年1月31日、東京都内で会見を開き、最先端のゲノム解析技術とAI(人工知能)を用いて「がんプレシジョン医療」を実現するシステムの開発に向けた共同研究を開始すると発表した。がん研究会が2001年から積み重ねてきたがんゲノム解析の技術と、FRONTEOヘルスケアのAIエンジン「KIBIT」を組み合わせた「診断支援システム」「インフォームドコンセント支援システム」を開発する。肺がんと乳がんを対象に、2021年までの5年間でプロジェクトを完成させる計画だ。
がん研究会研究本部長の野田哲生氏は「がん研究会では2001年に『ゲノムセンター』を開設したが、現在は、学問としてのがんゲノムから医療としてがんゲノムに移行しつつある。そこで2016年10月、ゲノムセンターを発展的に改組し『がんプレシジョン医療研究(CPM)センター』を立ち上げた」と語る。
CPMセンターの立ち上げ時に計画していた「がんプレシジョン医療の未来予想図」では、AIなどを活用した解析補助について、外部の情報系企業と連携する方針だった。今回発表したFRONTEOヘルスケアとの提携は、まさに外部の情報系企業と連携に当たる。
がんプレシジョン医療の未来予想図。CPMセンターでは、ゲノム解析を基軸としたクリニカルシークエンスとリキッドバイオプシー診断(血液など体液サンプルを使った診断)を行っている(クリックで拡大) 出典:がん研究会
「ごみも宝も混ぜるとごみに引っ張られる」
現在、AIというとディープラーニングに注目が集まっている。しかし今回の共同研究に用いられるKIBITはディープラーニングではない。FRONTEOヘルスケアの親会社であるFRONTEOが開発した「Landscaping」という機械学習法を採用している。Landscapingは、学習データを多面的に評価する学習機構を持ち、データが少数であっても効率的な学習ができ、計算コストが少ないことを特徴としている。
今回開発を予定している診断支援システムでは、がん研究会の医師や、FRONTEOヘルスケアが契約する医療専門家といったエキスパートが“良質”として選び出した論文や医療情報、その他最新情報をKIBITに入力して機械学習させる。そして、エキスパートの判断と感覚を学んだKIBITは、患者のゲノム情報や臨床情報、検査結果に合わせて、最適な治療法や薬剤に関する記述がある論文を特定し、短時間で医師に提供する。
またインフォームドコンセント支援システムについては、KIBITとの会話により患者の理解度に応じた丁寧な説明動画によってインフォームドコンセントを行えるようにする。「現在のインフォームドコンセントは、医師にとって負担が大きい一方で、患者も分かりにくいと感じている。この支援システムは、医師と患者双方にとって良いものになる」(野田氏)という。
FRONTEOヘルスケアでは、今回の共同研究とは別になるが「情報支援システム」の開発も計画している。専門家チームの情報選択手法を学習したKIBITが、医師にとって有益な専門記事を選択/提供するとともに、平易な文章でリライトされた専門記事の中から患者や家族にとって有益なものを選択/提供する。
野田氏は「遺伝子変異などに合わせて、がん患者一人一人に最適な治療を提供するがんプレシジョン医療は、これから進化させていかなければならない。現在、一般的で明確ながん治療法が当てはまらないがん患者のうち、5%くらいにしか最適な治療法を提案できていない。今回の共同研究が完成すれば30%にまで高めることができると期待している」と意気込む。
またディープラーニングではなくKIBITをAIエンジンとして選択した理由については「発表されている医療論文は、良質なものもあれば、再現性のない良質とはいえないものも多数ある。ごみも宝も混ぜた状態の大量のデータをAIの学習に使うと、どうしてもごみに引っ張られる。KIBITは、フィルタリングされた良質な教師データによる学習が可能なので、今回の共同研究に最適だと考えた」(シカゴ大学医学部教授 CPMセンター特任顧問の中村祐輔氏)としている。
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