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個別化治療を実現するプレシジョンメディシン:海外医療技術トレンド(2)(1/2 ページ)
欧米諸国では、遺伝子プロファイルを利用して各個人に合った治療法を提供する「プレシジョンメディシン」に注目が集まっている。個別化治療に向けたイノベーションの取り組みは、どのようなインパクトをもたらすのだろうか。
米国の成長戦略を担う「プレシジョンメディシン・イニシアチブ」
米国のオバマ大統領は、2015年1月20日に行った一般教書演説の中で、経済成長を可能にする研究開発投資の対象として「プレシジョンメディシン(精密医療)」を挙げた(ホワイトハウス関連情報)。「個別化された治療法の開発に向けて、個人、研究者、医療機関による協働を強化するような研究、技術、政策を通して、医療の新たな時代を可能にする」をビジョンとして、以下の5項目を目標として掲げた。
- より大規模で優れたがん治療
- 自発的な参加による全米規模の研究コホート設置
- プライバシー保護へのコミットメント
- 法規制の近代化
- 官民連携パートナーシップ(PPP)
同年1月30日の2015年度予算案で公表した、関連省庁レベルの具体的な施策を整理すると、表1のようになる。
行政機関および予算規模 | 施策の概要 |
---|---|
国立衛生研究所(NIH)(1億3000万米ドル) | 健康と疾病に対する理解の促進と、新たな研究方法の基盤づくりを目的にとして、100万人以上のボランティアによる研究コホートを確立する |
国立がん研究所(NCI)(7000万米ドル) | がん発現をもたらすゲノムの特定によって、効果的ながん治療アプローチの開発に向けた取組を拡充する |
食品医薬品局(FDA)(1000万米ドル) | プレシジョンメディシンのイノベーションを促進し、公共福祉を保護する規制構造を支援するために、高品質のデータベースを開発する |
国家医療IT調整室(ONC)(500万米ドル) | プライバシーに配慮しつつ、異なるシステム間の安全なデータ共有を可能にする相互運用性の標準と要件を開発する |
表1 米国政府の2015年度予算案における「プレシジョンメディシン」の施策 |
プレシジョンメディシンの発展に必要不可欠なビッグデータの標準化に関しては、2015年4月、国立標準研究所(NIST)が「ビッグデータ相互運用性フレームワーク・バージョン1.0」草案を公表し、健康医療/ライフサイエンス分野のユースケースを盛り込んでいる(関連リリース)。
プライバシー/個人データ保護に関しては、2015年7月、ホワイトハウスが「プレシジョンメディシン・イニシアチブ:プライバシーと信頼の原則提案」を公表して、パブリックコメントの募集を開始した(関連リリース)。この原則の概要を整理すると、下記のようになる。
- 動的、包括的なガバナンス構造の創造
- 透明性による信頼と説明責任の構築
- 参加者の選択の尊重
- 意味のあるエンゲージメントによる相互作用の確立
- 責任のあるデータ共有、アクセス、利用
- データの品質と完全性の維持
- 堅牢なデータセキュリティフレームワークの構築
このように米国では、プレシジョンメディシンを可能にする制度的な仕組みづくりが急ピッチで進んでいる。
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