個別化治療を実現するプレシジョンメディシン:海外医療技術トレンド(2)(2/2 ページ)
欧米諸国では、遺伝子プロファイルを利用して各個人に合った治療法を提供する「プレシジョンメディシン」に注目が集まっている。個別化治療に向けたイノベーションの取り組みは、どのようなインパクトをもたらすのだろうか。
北米から欧州へと拡大するプレシジョンメディシン投資
ホワイトハウスが提起したプレシジョンメディシン推進政策は、北米各地、さらには欧州へと広がっている。例えば2015年4月、カリフォルニア州政府は300万米ドルを投資し、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)およびUCヘルス傘下の5医療施設と共同で、プレシジョンメディシンの先進化に向けた新たな取り組みの立ち上げを公表した(関連リリース)。
図1は、UCSFが示したプレシジョンメディシンのマイルストーンである。
北米以外では、欧州連合(EU)が2014〜2020年を対象期間として推進する研究開発計画「ホライズン2020」の一環として、ポルトガル科学技術財団(FCT)がコーディネータとなり、ポルトガル国内の6大学および英国のユニバーシティカレッジ・ロンドン(UCL)と共同で、再生医療およびプレシジョンメディシンのためのディスカバリーセンター設置プロジェクトを実施している(関連リリース)。
加えて英国では、2015年7月、イノベーション政策を所管する行政機関「イノベートUK」が5000万英ポンドを投資して、ケンブリッジ大学バイオメディカルキャンパスを本拠地とする研究ネットワーク「プレシジョン・メディシン・カタパルト」を構築する計画を公表している(関連リリース)。
EU諸国では、個人データ保護規則の制定に向けた準備作業が進んでいるが、それと同時に、ビッグデータイノベーションによる新規産業・雇用創出の観点から、包括的なデータ利用許諾の仕組みなど利活用推進のための議論も活発化している。
プレシジョンメディシンで変わる医療機器の技術領域
医薬品業界は、プレシジョンメディシンの概念を取り入れ、分子標的と精密診断に基づいて、患者セグメントを厳密に定義し、高い効果を示す治療薬の開発を目指している。同様に医療機器の分野でも、プレシジョンメディシンを想定した新技術開発への取り組みが進んでおり、分子生物学、バイオインフォマティクスといった領域の重要性が増している。
例えばカナダでは、マックマスター大学の研究チームが、呼吸器や消化管だけが感染している場合でも、バクテリア、ウイルス、真菌といった病原体を、より早く正確に同定することができる分子デバイスを開発したことを発表している(関連リリース)。
日本では、診断系医療機器のコモディディ化が進行し、治療系機器におけるイノベーションで付加価値を創出しようという取り組みが広がっている。今後、データドリブンのプレシジョンメディシンが本格的に普及したら、診断と治療の間の敷居が低くなり、リアルタイム性が医療機器のバリュープロポジション(顧客に提供する価値の組み合わせ)として一層注目されることになるだろう。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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