AIは開いた世界で力を失う、弱点を補う人間の存在:人工知能(2/2 ページ)
2017年1月18〜20日に開催された「AIカンファレンス2017」の基調講演に日本のAI研究の第一人者といわれる国立情報学研究所の山田誠二氏(人工知能学会会長)が登壇。人とAIの望ましい関係性について語った。
ディープラーニングには黒魔術的な調整が必要
最近、注目されているディープラーニングは、ニューラルネットワーク(NN)の1つのアルゴリズムである。そのディープラーニングの成功例には、一般物体認識、テレビゲームの学習(DQN by DeepMind)、Googleの猫、AlphaGO(コンピュータ囲碁)などがある。
このうちAlphaGOはコンピュータが囲碁のチャンピオンに勝ったことで一躍有名になった。チェスと違って、将棋などは相手からとった駒をもう一度打つという手があるので、探索空間という先読みする空間が広くなるので、AIでは調べつくすのが難しい。囲碁も同じく探索空間が広いことから、モンテカルロ木探索+強化学習(Policy関数とValue関数)を用いており、この学習のところにディープラーニングが使われている。
ただ、ディープラーニングも万能ではなく、調整しなくてはいけないパラメータの数が異常に多く(数億)「黒魔術的なチューニング必要といわれている」(山田氏)。さらに、ノードの数や初期値を決めることが難しく、うまくいくかどうか予測不能のところがある。
自動運転など「開いた世界」がAIの課題
AIの実用化が広がってきた背景にはビッグデータが使える他、コンピュータパワーが安価に使用できるなどの環境が整ってきたことが挙げられる。しかし「いまだに大量のラベル付きデータはどこで収集するのか」「ドメイン限定でないビッグ(訓練)データはどこにあるのか」「NNは変数を扱えない」などの課題が残っている。
機械学習ベースのAIには得意な領域とそうでない領域が存在する。山田氏は「得意とする分野は静的データあるいは閉じた世界といわれるものだ。例えばAlphaGOなどのゲームがあるだろう。ゲームの世界は複雑だが、最初からルールで打てる手が限られており、原理的に全てを数え上げ、調べつくすことができる。一方で動的で開いた世界では、前提条件が次々に変わる。次に何が起こるか予測できないため、人間が予測できないものはAIもできない。自動車の自動運転もそうしたところが難しい」と述べている。
有望なAIの応用分野としては、ビッグデータに基づく機械学習(十分な訓練データを仮定)を活用することによって広がるとみられている。例えば、ヘルプデスクでの応答やFAQに基づく返答、支出の仕分け判断の自動化、さらにCT画像、X線画像の認識などの医療分野や荷物の分類、マルチモーダルなどのロジスティクス、ハッキングの検出などが活用領域として見込まれている。また、Webサイト上でのオンラインショッピングの商品推薦、エージェントのやりとり、会計関連での仕分け、インタラクティブ確定申告支援での応用などにも活用できそうだ。
人と協調する世界
今後、人とAIの間の現実的で望ましい関係について山田氏は「AIと人間が協調して何かを進めることが大切だ」と語る。その一例として人とロボットが飛行機を操縦したり、人とロボットが一緒に工場で作業したりするなどの将来像を描いている。
労働人口の減少という課題を抱えている日本では、AIによる労働力の補完が期待されている。そうした中で山田氏は「AIが人間の仕事を奪うという、危機感をあおる意見があるが、奪わないようなAIを人間が作ればいいだけの話だ。それよりも、人間の仕事を増やすように、また、AIと人間が一緒に仕事をするという環境を目指すべきである」と結論付けている。
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