シンギュラリティは今の人工知能技術の先にはない――ガートナー:人工知能
ガートナージャパンは、2017年における戦略的テクノロジートレンドのトップ10を発表。3つの傾向として「デジタルメッシュ」「どこでもインテリジェンスとなる世界」「デジタルプラットフォーム革命」を挙げている。
ガートナージャパンは2016年10月7日、年次ユーザーイベント「Gartner Symposium/ITXPO 2016」内で、「戦略的テクノロジートレンド」のトップ10を発表。デジタル化による産業や技術の変化を紹介した。
2017年の戦略的テクノロジートレンド
米国Gartner(以下、ガートナー)は、企業に大きな影響を与える可能性を持ったテクノロジートレンドを「戦略的テクノロジートレンド」と呼び、毎年発表を行っている。今回は大きく分けて「デジタルメッシュ」「どこでもインテリジェンスとなる世界」「デジタルプラットフォーム革命」の3つの傾向に分かれる10個の新たなテクノロジーを紹介した。2017年の注目すべき戦略テクノロジートップ10は以下の通りである。
- 会話型システム
- 拡張現実(AR)と仮想現実(VR)
- デジタルツイン
- 高度な機械学習と人工知能(AI)
- インテリジェントなアプリ
- インテリジェントなモノ
- アダプティブセキュリティアーキテクチャ
- ブロックチェーンと分散型台帳
- メッシュのアプリとサービスアーキテクチャ
- デジタルテクノロジープラットフォーム
これらの中から、製造業にも関係する幾つかの技術を紹介する。「拡張現実と仮想現実」については、現在のゲームなどの他に、疑似体験や医療セラピー、分子モデリングなど用途を大きく広げると予測する。
「デジタルツイン」は現在、製造業向けのITシステムにおいて注目を集めている技術である。製品のIoT化によりCADソフト上のデジタルデータと実際の製品の情報を同期させることができデジタル空間上に「デジタルの双子(デジタルツイン)」を生み出すことができる。これによりシミュレーションの精度を高め、より高度な結果を現実世界にフィードバックできる。ガートナーのフェローで、リサーチ部門バイスプレジデントであるジェイミー・ポプキン(Jamie Popkin)氏は「現在は製造ITの領域で活用が進んでいるが、今後は汎用化が進みより幅広い領域で使われるようになる」と述べている。
「現在の人工知能はシンギュラリティにはつながらない」
「高度な機械学習と人工知能(AI)」や「インテリジェントなアプリ、モノ」については、段階に応じた進化が進んでいる。AIの進化としては第一段階が目的が明確な情報処理からスタートし、複雑性に対処できるようになり、その後「理解、学習、予測、適応」などが可能となる。これらを経て「自律的な行動」を獲得するという。ポプキン氏は「個人的にはテクノロジーのサイクルは75年ごとに起きていると考えている。現在は、新たなサイクルの入り口に立っている状況である。いずれはテレビやラジオ、電話などが徐々に日常に受け入られていったように、人工知能も受け入れられるようになる」と人工知能の普及について語っている。
人工知能といえば、シンギュラリティ(技術的特異点)を迎え、「機械が自律的に自己の進化を推し進めるようになり、人を支配するようになる」というような考え方が広く普及している。しかし、ポプキン氏は「基本的には現在の人工知能や機械学習の先にシンギュラリティはないと考えている。今の技術の延長線上にはシンギュラリティはなく、はるか先のものだ。ニューロモーフィックチップのように人間の脳を模倣するハードウェアが生まれてくれば、こうした動きも変わってくる可能性はある。ただ、実際にはシンギュラリティは当面は起こらず、人工知能も人を助け、人の機能を拡張していくものとしての役割を果たすと見ている」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 人工知能は製造現場でどう役に立つのか
人間の知的活動を代替するといわれる人工知能が大きな注目を集めている。ただ、製造現場で「使える」人工知能は、一般的に言われているような大規模演算が必要なものではない。「使える人工知能」に向けていち早く実現へと踏み出しているファナックとPFNの取り組みを紹介する。 - 製造業で人工知能はどう使うべきなのか
日本IBMとソフトバンクは、自然対話型人工知能「ワトソン(Watson)」の日本語版の提供を開始する。自然言語分類や対話、検索およびランク付け、文書変換など6つのアプリケーションをサービスとして展開する。 - 「コンパクトな人工知能」実現へ、組み込み機器でディープラーニング
三菱電機がディープラーニングを組み込み機器単体でも実用可能なものとする手法を開発。自動車や産業用ロボット、監視カメラなどへの「人工知能」搭載を進める。 - 製造業IoTに新たなデファクト誕生か、ファナックらが人工知能搭載の情報基盤開発へ
ファナックやシスコシステムズら4社は、製造現場向けのIoTプラットフォームとして「FIELD system」を開発し、2016年度中にリリースすることを発表した。競合メーカーの製品なども接続可能なオープンな基盤とする方針。製造業IoTでは各種団体が取り組むが、ファナックでは既に製造現場に350万台以上の機器を出荷している強みを生かし「現場発」の価値を訴求する。 - IoTとCADの融合した姿の1つ、“デジタルの双子”とは?
PTCジャパンは「第26回 設計・製造ソリューション展(DMS2015)」(会期:2015年6月24〜26日)に出展し、同社が展開するIoTソリューションによる“デジタルの双子”の価値について訴えた。 - シーメンスPLMが描くインダストリー4.0の姿
シーメンスPLMソフトウェアはドイツの国家政策として進められているモノづくり革新「インダストリー4.0」に対する同社の取り組みについて説明。さらに「2015国際ロボット展(2015年12月2〜5日、東京ビッグサイト)」で展示するデモンストレーションの概要について明らかにした。