パナソニックのIoT×家電事業にコーヒー焙煎の世界チャンピオンが協力する理由:イノベーションのレシピ(2/2 ページ)
パナソニックは、IoT×調理家電を活用した新たな食のサービス事業として、コーヒーの生豆を宅配し、その生豆に最適な焙煎を自宅で行える「The Roast(ザ・ロースト)」を発表した。焙煎の決め手になる焙煎プロファイルは、世界チャンピオンの後藤直紀氏が提供する。
「コーヒーが好きな人間の一人として」焙煎プロファイルを提供
ザ・ローストをサービス提供する上で欠かせないピースとなるのが焙煎プロファイルだ。一般的にコーヒーの焙煎は、大型の装置である業務用の焙煎機を使って、細やかに温度や風量を制御しながら行う。会見では、ザ・ローストに焙煎プロファイルを提供する後藤氏が、業務用焙煎機の装置内部で焙煎されているコーヒー豆から出てくる音を聞きながら細やかに制御を行う様子が映像で流された。
焙煎プロファイルとは、焙煎士の腕前を決めるノウハウをデータ化したものと言っていい。ザ・ローストに焙煎プロファイルを提供することで、後藤氏の顧客が減る可能性もある。
IoTやAI(人工知能)の活用では、ノウハウがデータ化されることでこれまであった専門職がなくなる、機械やコンピュータが人間の仕事を奪う、という話が必ず出てくる。このため、ノウハウのデータ化は専門技術職から敬遠されることが多い。
では後藤氏は、そういったリスクがあるにもかかわらず、ザ・ローストへの焙煎プロファイルの提供を決めたのだろうか。
同氏は「私はもともとコーヒーが大好きで、自身で焙煎をしようと思ったところから今の仕事に至っている。従来も自宅焙煎用の焙煎機はあったが、満足のいくようなものがなかった。しかしザ・ローストの焙煎機は、本当においしいコーヒーの焙煎ができる仕上がりになっていた。とはいえ、一般の方がマニュアル操作でおいしいコーヒーを焙煎するのは極めて難しいことも事実。少し悩んだが、コーヒーが好きな人間の一人として、多くの方に自宅でおいしいコーヒーを楽しんでもらえればと思い、焙煎プロファイルを提供することを決めた。これから、ザ・ローストの味づくりに参加できることにワクワクしている」と説明する。
なお、焙煎プロファイルは、センサーを組み込んだプロファイル作成専用の焙煎機と、焙煎のための制御を細やかに行える専用ソフトウェアを使って作成している。
約2年で事業化にこぎつけたパナソニック
ザ・ローストは、パナソニックにとっても従来にない形での事業化になる。アプライアンス社を含めてパナソニック社内を横断する形で事業の考案を始めたのが2015年1月。その後、ベンチャーであるIKAWAとの提携による家庭用焙煎機の開発や、生豆を提供する石光商事、焙煎プロファイルを作成する村上氏への協力要請なども合わせて約2年で正式発表にこぎつけた。
「従来であれば、2年間で新規に家電を開発して販売することはできなかった。今回は製品開発だけでなく、サービスとして仕上げる必要もあったわけで、かなりのスピード感で事業を立ち上げられたのでは」(パナソニック コンシューマーマーケティング ジャパン本部 商品企画部 商品企画課 課長の図師和彦氏)としている。
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