IoTでつながるクルマの未来――コネクテッドカーに向け電機業界がなすべきこと:IHS Industrial IoT Insight(2)(3/3 ページ)
今後の製造業の発展に向けて必要不可欠とみられているIoT(モノのインターネット)。本連載では、IoTの現在地を確認するとともに、産業別のIoT活用の方向性を提示していく。第2回は、つながるクルマ=コネクテッドカーとしてIoT端末の1つになる自動車を取り上げる。
「ユビキタス」はなぜ死語になったのか
IoTが黎明期を迎えた現在、半導体業界やICT(情報通信技術)業界で何が起きているか、これから何が起こりそうかについて整理してみよう。
もともと、車載、産業機器分野では、MCU(マイコン)、Analog IC(アナログIC)、Power Discrete(個別パワー半導体)の需要が相対的に高く、これらは最先端プロセスを特に必要としない。この結果、最先端ではない8インチウエハーを使う半導体工場への回帰が起こっており、中古装置の価格が暴騰する、といった現象も見られている。
またMCUはARMコアの比率が高まっており、企業ごとの差別化がしにくくなっている。結果としてAnalog ICでの差別化が重要視され、M&Aが多発していることも見逃せない。
Analog IC業界、車載半導体業界を意識したM&Aは、今後も続くだろうと筆者は予測している。
ICT業界では、Apple(アップル)、Google(グーグル)を中心とした動きが当面は続くだろう。スマホはIoTのキーデバイスであり、スマホのアプリと連動することで新しいサービスが実現する、という事例が続々と登場している。
「新車はスマホとつながらないと売れない」という自動車メーカーにとって、AppleやGoogleとの対話を重要視するのは必然かもしれない。しかし、この2社が自動車メーカーにどんな価値を与えてくれるのか、自動車もIoT端末の1つと考える2社を自動車メーカーの味方と考えて良いのか、注意が必要だろう。
そもそもIoTは資産の有効活用や効率化を目的とする手段である。自動車へのIoTの適用が進んだ場合に、カーシェアリングが普及して新車が売れなくなるのではないか、IoTで車載ソフトウェアの更新ができるようになってディーラーの仕事が減るのではないか、という心配事も出てくる。ユーザーの負担軽減や利便性を追求すると、従来型のビジネスの一部が成立しなくなる場合があるのだ。
冒頭に「IoTという単語をあまり使わないように心掛けている」と申し上げたのは、実体のない概念的な単語に振り回されていると、事業の具体化が進まなくなる、という懸念があるからだ。
古い話で恐縮だが、かつて日系半導体メーカーの多くは、DRAM事業から撤退する際、「これからの戦略商品はシステムLSI、ターゲット市場はユビキタス」などと唱えていた。しかしシステムLSIもユビキタスも概念的な単語にすぎず、実体を伴っていたとは言い難い。
「ユビキタス」とは、インターネットなどの情報ネットワークに、いつでも、どこからでもアクセスできる環境を指す概念語だった訳だが、今にして思えば、これはスマホのことを指していたように思える。その証拠に、スマホが普及した現在、「ユビキタス」は完全な死語となった。しかし、スマホにシステムLSIを売り込めた日系半導体メーカーは残念ながら1社も存在しない。実体のない概念的な単語に振り回され、事業の具体化が進まなかった典型的な例である。
二度と同じ過ちを繰り返さないためにも、日系各社は「IoT」などという概念語に振り回されることなく、具体的なサービスの実現を目指して事業を推進して頂きたいと願っている。
プロフィール
大山 聡(おおやま さとる) IHSテクノロジー 主席アナリスト
1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年までABNアムロ証券、リーマンブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職し、半導体部門の経営戦略に従事。2010年より現職で、二次電池をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。
https://www.ihsjapan.co.jp/
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫連載「IHS Industrial IoT Insight」バックナンバー
- ≫ITmedia産業5メディア総力特集「IoTがもたらす製造業の革新」
- トヨタのコネクテッド戦略は3本の矢、「IoT時代の製造業の在り方を切り開く」
トヨタ自動車は、東京都内で会見を開き、同社のコネクテッド戦略を説明。2016年4月に新たに発足したコネクティッドカンパニーのプレジデントを務める専務役員の友山茂樹氏は「IoT時代の新しい製造業の在り方を切り開くため、モビリティサービスのプラットフォーマーになる」と強調した。 - ルノー日産がコネクテッドサービス基盤を共通化、約1000人の組織で開発も強化
ルノー・日産アライアンス(ルノー日産)がコネクテッドカーやモビリティサービスの方向性について説明。責任者のオギ・レドジク氏は、ルノー、日産、インフィニティ、ダットサンなどルノー日産傘下の全てのブランドで、コネクテッドカーに必要なプラットフォームを共通化する方針を打ち出した。 - IoTの基本コンセプトと「未来予想図」
今後の製造業の発展に向けて必要不可欠とみられているIoT(モノのインターネット)。本連載では、IoTの現在地を確認するとともに、産業別のIoT活用の方向性を提示していく。第1回は、IoTの基本コンセプトについて整理するとともに、代表的な活用用途である「スマートシティ」と「スマート工場」の海外と日本の状況を紹介する。 - IoTの鍵を握るのは「人工知能チップ」「中国」「電子部品メーカー」
「第1回IHSテクノロジーフォーラム2016」の基調講演に登壇したIHSマークイットの南川明氏は、IoTの鍵を握る要素として「人工知能チップ」「中国」「電子部品メーカー」などを挙げた。