生産技術の進化がなければ、TNGAもハイブリッドシステムの向上も成立しない:JIMTOF2016 トヨタ自動車 特別講演(3/3 ページ)
他社がまねできない技術には、工作機械メーカーの協力が不可欠――。「第28回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2016)」の特別講演で、「TNGA(Toyota New Global Architecture)」やエコカー戦略を支える生産技術について、トヨタ自動車 パワートレーンカンパニー ユニット生産技術領域 常務理事の近藤禎人氏が語った。
小麦粉と水を均一に混ぜるのが、電極づくりのヒント
駆動用バッテリーでは、電極の生産工程に異業種の技術を応用した。電極材料の粉末と液体はダマにならないように均一にペースト状に混練しなければならない。
従来は大釜で一気に湿潤/溶解/分散させるバッチ混練だったが、均一に混ぜるために時間がかかる欠点があった。食品業界の技術に倣って、小麦粉と水を混ぜる時のように少しずつ混ぜていくことで短時間で均一に混練できる装置を開発した。
電極材料を銅箔に塗布する工程では、印刷業界と鉄鋼業界の技術を応用した。先述した均一に混ぜた材料を銅箔に塗る際、電池の性能向上のためには両面に均一に塗布する事が不可欠となる。ここでは写真のフィルムを作る印刷技術を応用し、銅箔と材料を安定して接着させる技術を開発した。
電極材料を塗布した後は、膜厚を薄く均一につぶす工程が続く。電極の膜圧はミクロンオーダーで均一化することが求められる。課題となっていたのは膜圧を一定にするためのローラーが発熱することだ。熱によって膜圧がばらついてしまうためだ。これに対し、鉄鋼業界の技術を借りてローラーの発熱を抑える水冷機構を搭載、膜圧を測定/監視しながら品質を維持する技術を開発した。
近藤氏は、ハイブリッド車や電気自動車は市場が拡大していくこともあり、さらなる生産の効率化に取り組みたいと述べた。異業種の技術でも有益なものは多く、他の業界に積極的に学びたいとしている。
次の部門にバトンタッチしていく“棒継ぎ開発”はやめよう
トヨタ自動車では、設計部門が製品開発した後で、生産技術部門が工法を決定、さらにその後で設備部門が生産設備を開発するという流れで進んでいた。これでは、各部門の開発に要した時間が積み上がっていくため、開発期間の短縮が難しい。
近藤氏は、製品設計、生産技術、生産設備の全てを同時並行で今後進めていくと説明。そのためには、工作機械業界に設備の革新だけでなく製品設計にも積極的に関わってほしいと述べた。
これまでは自動車メーカー側から設備仕様を打診していた。工作機械メーカーの検討と自動車メーカーの承認を繰り返し、設備の実機が完成するのを待って評価するという形だった。今後は、設備のコンセプトの共有からスタートし、実機の試作と評価のサイクルを早めていきたいという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ようやく見えてきた、車載ソーラーパネル採用の兆し
これまで自動車メーカーは、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)にソーラーパネルの搭載を検討してきたが、なかなか実現できなかった。その主な理由は、太陽光発電による実走行距離が短く、費用対効果の面からも採用が困難だったからである。また技術的にも課題があった。しかし、ここにきて採用に向けた兆しが見えてきた。 - シリンダーブロックの粗削りと研磨作業が1台で完結、カギはリニアモーター
日産自動車は、シリンダーブロックの加工技術のライセンスを、工作機械メーカーのエンシュウに供与した。エンシュウはこの加工技術を生かして、シリンダーブロックの粗加工から研磨まで1台で完結するマシニングセンタ「BH100VL」を開発し、販売する。ライセンスを供与されているので、日産自動車以外の企業に向けても提案していく。 - 縦置き直6サイコー!? シリンダ(気筒)の基本
直列4気筒やV型6気筒のメリットは、どんなことだろうか。またBMWがあえて、直列6気筒にこだわってきた理由とは? - ヤマザキマザックとシスコが製造業IoTで提携、スマート工場実現を加速
ヤマザキマザックとシスコシステムズは、製造業のIoT化推進と製造業向けのクラウドサービスの開発に向けて協業することを発表した。既に両社は2015年から工作機械をネットワーク環境に接続する「スマートボックス」の共同開発を推進しており、今後はこの枠組みをさらに広げる方針である。 - 新型「プリウスPHV」は先代の反省を生かす、「なるべくエンジンを使わない」
「プラグインハイブリッド車なのに、なぜすぐにエンジンがかかってしまうんだ」。2012年に発売したトヨタ自動車のプラグインハイブリッド車「プリウスPHV」には、このような不満が寄せられていた。2016年冬に発売する新型プリウスPHVは、プラグインハイブリッド車が持つ電気自動車としての側面を追求し、なるべくエンジンを使わないことを目指した。