シリンダーブロックの粗削りと研磨作業が1台で完結、カギはリニアモーター:製造技術
日産自動車は、シリンダーブロックの加工技術のライセンスを、工作機械メーカーのエンシュウに供与した。エンシュウはこの加工技術を生かして、シリンダーブロックの粗加工から研磨まで1台で完結するマシニングセンタ「BH100VL」を開発し、販売する。ライセンスを供与されているので、日産自動車以外の企業に向けても提案していく。
日産自動車は2016年11月16日、シリンダーブロックの加工技術のライセンスを、工作機械メーカーのエンシュウに供与すると発表した。エンシュウはこの加工技術を生かして、シリンダーブロックの粗加工から研磨まで1台で完結するマシニングセンタ「BH100VL」を開発し、販売する。ライセンスを供与されているので、日産自動車以外の企業に向けても提案していく。
日産自動車が供与したライセンスは、シリンダーブロックの内径の加工技術に関するものだ。シリンダーブロックの内径は、ボーリング加工と呼ばれる粗削りの後、ホーニング加工という研磨を経て加工作業が完了する。
粗削りと研磨、なぜ1台でこなせないのか
従来、ボーリング加工とホーニング加工は個別の設備で行っていた。ボーリング加工を行うマシニングセンタと、ホーニング加工機は、それぞれ別の工作機械メーカーが手掛けており、一体型となった工作機械もなかった。エンシュウはマシニングセンタを手掛けている。
ボーリング加工とホーニング加工を1つの設備に一体化するのが難しかった要因は、加工工具の動かし方の違いが大きい。どちらの加工も工具が上下運動するのは共通だが、ホーニング加工は研磨のため細かい動きが増える。ボーリング加工はボールねじによる工具の駆動が多く、ボールねじ駆動ではホーニング加工に必要な細かい動作に対する耐久性が確保できなかった。
エンシュウは、工具をリニアモーター駆動とすることによりパワーと高速で高精度な移動を両立することに成功。マシニングセンタでホーニング加工も行えるようにした。「第28回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2016)」(2016年11月17〜22日、東京ビッグサイト)において、BH100VLの実機を展示している。
1台に集約すると
ボーリング加工とホーニング加工を1台に集約することにより、生産準備工数の削減や加工精度の向上、設備台数の削減、設備投資の低減に貢献する。また、内径の異なるエンジンの混流生産も実現可能としている。ボーリング加工とホーニング加工以外にも、穴あけや面加工、溝入れなどにも1台で対応できるため、シリンダー内径だけでなく、ディーゼルエンジンのシリンダースリーブや水冷部の溝などにも使用できる。
同社はホーニング加工機は手掛けていないが、リニアモーター駆動のマシニングセンタを製品ラインアップに持っており、ピストンの加工用などで二輪車メーカーに納入実績があった。
また、ボーリング加工/ホーニング加工ともに、自動で内径を計測してNC(数値制御)で補正して加工を行えるようにした。ホーニング加工に参入するに当たっては「ボーリング加工とは計測するポイントが異なるためハードルが高かった」(エンシュウの説明員)という。BH100VLで行う加工を全て数値制御化したことにより、加工情報や設備の状態、稼働状況などを可視化できるようにした。「今後求められるIoT(モノのインターネット)にも対応していきたい」(同社の説明員)。
ホーニング加工対応のマシニングセンタは既に日産自動車に数台を納入しており、2016年12月からは日産自動車以外にも販売する。「粗削りと研磨の両方が必要な部品はエンジン以外にもある。さまざまな業種に向けて提案していきたい」(同社の説明員)としている。
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