日立オートモティブがミリ波レーダーと単眼カメラを究める、茨城大学と共同研究:自動運転技術
日立オートモティブシステムズは、茨城大学と自動運転関連技術の共同研究や人材育成などを包括的に推進する連携事業実施協定を締結した。日立オートモティブシステムズが自動運転に関して大学とこうした協定を結ぶのは初めて。2016年度からは3年間をめどに、量産化を前提としたミリ波レーダーと画像認識技術の研究を行う。
日立オートモティブシステムズは2016年8月31日、茨城大学と自動運転関連技術の共同研究や人材育成などを包括的に推進する連携事業実施協定を締結したと発表した。日立オートモティブシステムズが自動運転に関して大学とこうした協定を結ぶのは初めて。
2016年度からは3年間をめどに、量産化を前提としたミリ波レーダーと画像認識技術の共同研究を行う。両者はこれまでに基礎技術の共同研究を行ってきたが、今回の連携事業によって応用技術も含めて広範囲の研究で協力し、基礎技術を製品に応用するまでにかかる研究期間を短縮する狙いだ。
連携の範囲を拡大
連携事業の範囲は、自動運転をはじめとする次世代自動車に向けた技術の共同研究、客員研究員や客員教授を派遣しあうことによる協力の強化、インターンシップや社員の博士号取得の拡大といった人材育成など多岐にわたる。
茨城大学と日立オートモティブシステムズは、これまでにレーダーやエアフローセンサーなどのセンシング技術や高効率燃焼技術といった基礎研究に共同で取り組んできた。
しかし「基礎技術からバトンをもらって応用に展開する取り組みは成功してきたが、競合の技術進化が早い自動運転に関しては応用に時間をかけられない」(日立オートモティブシステムズ 常務執行役員 CTO兼技術開発本部長の川端敦氏)という背景があり、応用技術も含めた共同研究に取り組むこととした。量産を前提に、“出口”を共有して基礎技術から共同開発することにより、応用技術の確立に要する期間を短縮していく。
連携事業での共同研究に当たって、茨城大学は新たに工学部付属の「次世代モビリティ教育研究センター」を発足させた。同センターでは、日立オートモティブシステムズとの共同研究とは別に、エネルギーの多様化や水素の利活用、車両の高効率化など広いテーマで研究を行う。
共同研究の第1弾は、ミリ波レーダーと画像認識技術
2016年度から始まる共同研究の第1弾として、ミリ波レーダーと画像認識技術をテーマに選んだ。これらのテーマの選定は、茨城大学が複数提案した中から、日立オートモティブシステムズが選ぶ形をとった。大学や教員の興味関心に基づく従来の研究とは異なり、ニーズを踏まえた“課題解決型研究”として進めていく。研究期間は3年程度をめどとし、その成果を基に日立オートモティブシステムズが製品化に結び付ける。
ミリ波レーダーの研究では、1台当たりの搭載数や搭載車両が増加した後の混線対策に重点を置く。また、ミリ波レーダーで得られる情報量が増えた場合に向けて、他のセンサーとのフュージョンの在り方も検討していく。一方、画像認識技術では、単眼カメラの限界を追求する。「単眼カメラでできることが増えれば、システムとしてのコストを下げながらクルマの目を増やすことができる」(茨城大学 教授・副工学部長の梅比良正弘氏)と見込んでいる。
共同研究で取り扱うテーマは、茨城大学から日立オートモティブシステムズに提案する形で増やしていく。梅比良氏は「今回はミリ波レーダーの優先度が高かったが、大学内にはレーザーの専門家もいる。ライダーの研究も提案していきたい。他にも、コネクテッドカーやドライバーの状態監視など候補は多い」と述べた。
茨城大学との共同研究の範囲は、「自動運転には社会受容性を高めていくための研究も必要」(梅比良氏)となるため、工学系だけでなく人文学系にも広げていく。
自動運転システム市場でのシェア10%に向けて
自動運転システムの開発は、日立オートモティブシステムズだけでなく、日立製作所やクラリオンを含めた日立グループとして集中的に取り組んでいる分野だ。情報と車両制御を融合する自動運転システムの市場は2020年に3兆円以上に拡大すると見込んでおり、シェア10%=3000億円以上の事業に拡大することを目指す。
2016年2月には、量産可能なプロトタイプの自動運転ECUを使い、茨城県内においてレベル2相当の自動運転車で公道実験を行った。これは茨城県による事業支援プログラムによるもの。2016年4月には日立グループ全体でソリューションとしての自動運転システムの開発を強化するため情報安全システム事業部を立ち上げ、同年8月には、茨城県内にある佐和事業所の敷地内で開発試験棟の建設に着工した。茨城大学との連携事業実施協定によって、要素技術の開発と応用にも注力していく。
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