マツダの「モノづくり革新」を推し進めるTPM活動の神髄とは:いまさら聞けないTPM(7)(3/3 ページ)
本連載「いまさら聞けないTPM」では、TPM(Total Productive Maintenance)とは何か、そして実際に成果を得るためにどういうことに取り組めばいいかという点を解説する。最終回の第7回は、TPM活動の実践事例として、2015年3月末までマツダの常務執行役員を務め、「モノづくり革新」の推進に貢献した中野雅文氏の寄稿をお届けする。
3.自主的に活動する人材を育てる創造的自主管理活動
レス化技術確立による創造的なラインづくりが進んでも、自主保全のサークルによる確実かつ継続的なライン運営が実施されなければ、活動成果が後戻りをして、再び大きなロスを生むことになります。着実に目指す姿を維持するためには、自主保全活動により継続してラインを改善しながら、自分達で自主管理することが必要不可欠です。
自主保全活動では、自分達のライン・職場を、自分達の力でPDCAを回してスパイラルアップするような活動を進めています。その進め方は、会社のビジョンや工場方針に沿って自分達で目指す姿を描き、目標を設定し、それらを達成する課題を自分達の手で解決しています。さらにそれをきっちり維持管理し、後輩や新しいメンバーに伝承するPDCAを繰り返し回し、ライン運営を進捗させています。その過程で、サークル員1人1人が、1人4役(製造技能、ライン管理、保全技能、改善技能)をこなしますが、特に改善力を向上させることが大切であると考えて育成してきました。
サークルで設定したテーマを解決するために改善を行う上で、自分でアイデアを出し、自分でモノをつくり、自分の力でアイデアを形にすることが大切です。そして、それを自分達でラインに設置し、自分達で評価して活用しています。
こういったサイクルの中で、からくり原理も活用しながら、自主的、体系的、理論的、創造的なさまざまな優れた改善が生まれています。自主的な改善では、自前でフレキブルラインの量産準備業務や設備の設置を行いました。体系的な改善では、点検の容易化を狙った重力や浮力を活用した給油装置があります。理論的改善では、周波数解析によるポンプなどの騒音対策、創造的な改善では、コイン選別機の原理を応用した多種類の治具を自動で分配する装置などを考案し実用化してきました。
これらの改善を見ると、改善力を含める人の能力は無限大であり、どこまでも高めていくことができるものであると感じさせてくれます。「人財」を育てることに対して積極的に取り組むことの重要性を教えられました。
モノづくりの生産方式を進化させてきたマツダの製造現場とって、1992年から開始した25年間のTPM活動は、その神髄である「人を活かす・人が活きる」の実践だったと言えます。その中で、開発と製造との究極のコンカレント活動や、創造的なレス化技術により大きく革新させた生産方式、バラツキを極小化させる予防を徹した品質・稼働の信頼性向上、自律して工場・ラインを変革し続ける人財の育成など、これまで多くのメンバーと協業しながら実現してきました。
これらを実現して得た技術力や進化したプロセスは、今後のインダストリー4.0などのモノづくりの大きな変化の流れの中でも、顧客のニーズにフレキブルに生産対応する製造ラインの構築や、スマートラインの根幹を成す製造ラインの信頼性、自律したラインで最小のコントロールをする人質を高めることなどのベースの面で、必ず寄与し続けると確信しています。
(連載完)
筆者プロフィル
中野雅文(なかの まさふみ)
1979年のマツダ株式会社入社以来、エンジン製造部門のエンジニアとして従事。1992年からTPM活動を導入し、知恵を使った改善での16大ロス徹底排除に努め、防府工場・本社工場の工場長として、エンジン・変速機の2部門がそれぞれ、TPM優秀賞の最上位賞であるワールドクラス賞を受賞する過程で、めざす姿のラインづくりの実現をリード。その後、常務執行役員に就任し、マツダのモノづくり革新、ブランド品質の推進に貢献。2015年からJMAC-TPMコンサルタントを務める。
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