細胞分裂をけん引する分子モーターが逆走する仕組みを解明:医療技術ニュース
理化学研究所は、細胞分裂をけん引する分子モーター「Kinesin-14」が、他のキネシンとは逆向きに動く分子メカニズムを解明した。
理化学研究所は2016年7月22日、細胞分裂をけん引する分子モーター「Kinesin-14(キネシン-14)」が、他のキネシンとは逆向きに動く分子メカニズムを解明したと発表した。同研究所ライフサイエンス技術基盤研究センターの仁田亮上級研究員と東京大学大学院総合文化研究科の矢島潤一郎准教授らの共同研究グループによるもので、成果は米科学誌「Structure」オンライン版に同月21日付で掲載された。
生物が作るタンパク質には、エネルギーを使って動く「分子モーター」がある。その1種であるキネシンは、ほ乳類では45種類あるとされ、細胞内の運び屋として重要な役割を担っている。ほとんどのキネシンは、微小管というレールの上をプラス端側へ動く順行性モーターだが、キネシン-14はマイナス端側へ動く逆行性モーターとして知られ、これまでその分子メカニズムは不明だった。
研究グループでは、まず、モータードメイン(領域)と呼ばれる動力部位に着目。逆行性キネシンには、モータードメインのアミノ末端側に「ネックへリックス」、カルボキシ末端側に「ネックミミック」と呼ばれるドメインがある。この2つのドメインを順行性キネシンのモータードメインにつなぐと、順行性キネシンが逆向きに動くことが分かった。また、逆行性になったキネシンのネックミミックの5個のアミノ酸を順行性キネシンのネックリンカーのものと入れ替えると、モーターの動く向きが逆転し、順行性になることが明らかになった。
次に、キネシン-14の立体構造を解析し、分子メカニズムを調査した。その結果、順行性/逆行性どちらのモータードメインでも、アデノシン三リン酸(ATP)結合部位の周囲で小さな構造変化が起き、その構造変化が隣の長いらせん構造(ヘリックスα4)の回転運動を引き起こした。ネックミミックは、この構造変化を入力信号として受け、逆行性キネシンだけにあるネックヘリックスのスイングへと変換する役割を果たすことが分かった。さらに、そのスイングの向きが逆行性モーターの動く向きを決めており、細胞分裂の際に、逆行性キネシンが紡錘体の形成・染色体の整列に貢献するという機能を支えていることが判明した。
同成果は、細胞分裂における染色体分配の分子メカニズムの解明に寄与するだけでなく、細胞分裂を制御する分子モーターに対する新たな抗がん剤設計への応用など、さまざまな展開が期待できるとしている。
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