超解像イメージングで生きた細胞の光エネルギー伝達を可視化:医療技術ニュース
理化学研究所は、生細胞超解像・高速イメージングによって、生きた植物細胞内に存在する葉緑体内での「光エネルギー伝達」の様子を可視化することに成功した。この成果は生きた細胞の活動を超解像・高速で継時観察する解析法の基盤になるという。
理化学研究所は2016年7月15日、生細胞超解像・高速イメージングによって、生きた植物細胞内に存在する葉緑体内での「光エネルギー伝達」の様子を可視化することに成功したと発表した。同研究所光量子工学研究領域生細胞超解像イメージング研究チームの中野明彦チームリーダーらの共同研究チームによるもので、成果は同月15日、英科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。
植物細胞内には10μm以下の球体をした葉緑体が多く存在し、太陽からの光エネルギーを利用して光合成反応を行っている。あまりに小さい葉緑体内でのタンパク質の働きを観察すること、また、高速に伝達する光エネルギーを直接捕えることは極めて難しく、これまで光エネルギー伝達を生きた細胞で観察することはできなかった。
研究チームは今回、一度に複数の色を三次元的に高速で観察できる「共焦点顕微鏡システム(SCLIM)」を開発した。そしてこれを用いて、ヒメツリガネゴケの葉緑体の内部を、生きたまま観察することに成功した。
光合成反応は、葉緑体内のクロロフィル(光エネルギーを吸収する色素)と結合している集光アンテナタンパク質が、吸収した光エネルギーを葉緑体のチラコイド膜に存在する光化学系(タンパク質)へと運ぶことで始まる。その際、利用しきれなかった光エネルギーは、ある一定の割合で再び蛍光としてクロロフィルから放出される。
この様子を観察するため、まず、同時に複数色を観察できるSCLIMの特色を生かし、クロロフィルから発せられる蛍光を2つの波長に分けて観察した。さらに分光解析などを用いることで、長波長側は光化学系の影響を多く含む蛍光(F-PSII)、短波長側は集光アンテナタンパク質の影響を多く含む蛍光(F-APM)であることが分かった。
続いて、SCLIMの三次元空間を高速にスキャンする特色を生かし、二色同時タイムラプスイメージング(生きた細胞や組織を経時的に観察する手法)を試みた。過去の研究と比べて、SCLIMによる観察では、より速くより微細に、より多くの空間情報を取得でき、その結果、F-PSIIは比較的動きの変動が少ないこと、F-APMは1.5秒では追跡できないほど速い動きを示すことが分かった。後者の、1.5秒で追跡できない速さの変動は、光化学系へと伝達する光エネルギー量の変動を間接的に示していると考えられる。
今回の研究により、光合成反応の初期に起こる光エネルギー伝達機構の速い変化を追跡することが可能になった。この成果は、今後、超解像・高速で生きた細胞の活動を継時観察するライブセルイメージング解析の基盤となるものだという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- マウスの「父性の目覚め」に関わる2つの脳部位を発見
理化学研究所は、雄マウスの子育て(養育行動)意欲が、「cMPOA」と「BSTrh」という2つの脳部位の活性化状態から推定できることを発見した。 - 京やFOCUSも社内ネットワーク感覚で利用可能なサービスを開始
CAEツールの提供・サポートを行うヴァイナスは、2015年春からクラウドHPCにおける自社開発ソルバーおよびオープンソルバ利用のサポートを本格的に開始する。 - 「やる気や頑張り」がリハビリの効果に影響することを証明
自然科学研究機構生理学研究所は、脊髄損傷後のサルの運動機能回復において、やる気や頑張りをつかさどる「側坐核」が、運動機能をつかさどる「大脳皮質運動野」の活動を活性化し、運動機能の回復を支えることを明らかにした。 - 恐怖体験の記憶形成の仕組み解明へ前進。PTSDの軽減に期待
ラットを使った実験により、恐怖記憶の形成には、ヘッブ仮説で示されたニューロン間のつながりが強化されるメカニズムだけでなく、注意を喚起する際に働く神経修飾物質の活性化も重要であることを示唆する結果が得られた。 - バセドウ病の発症を予測するHLA遺伝子配列の同定に成功
理化学研究所は、HLA遺伝子の個人差をコンピュータ上で網羅的に解析する「HLA imputation法」を日本人に適用するためのデータベースを開発し、日本人のバセドウ病発症に関わるHLA遺伝子配列の同定に成功した。