プレシジョンメディシンの鍵を握る次世代シーケンサー規制:海外医療技術トレンド(16)(3/3 ページ)
遺伝子の塩基配列を高速に読み出す次世代シーケンサー。米国では、遺伝子プロファイルを利用して各個人に合った治療法を提供する「プレシジョンメディシン」の中核技術として、臨床適用に向けたルールづくりが進んでいる。
次世代シーケンシング試験の効率的な規制をめざすFDA
図3 次世代シーケンシングに基づく体外診断の規制監督基準-利害関係者およびFDAスタッフ向けドラフトガイダンス(クリックで拡大) 出典:FDA「Use of Standards in FDA Regulatory Oversight of Next Generation Sequencing (NGS)-Based In Vitro Diagnostics (IVDs) Used for Diagnosing Germline Diseases Draft Guidance for Stakeholders and Food and Drug Administration Staff」(2016年7月8日)
2016年7月8日、FDAは、次世代シーケンシング試験に対する規制監督業務を効率化させることを目的として、2種類のガイドライン草案を公表した(関連情報)。
そのうちの1つが、「生殖細胞系疾患診断に利用される次世代シーケンシングに基づく体外診断のFDA規制監督における基準の利用 - 利害関係者およびFDAスタッフ向けドラフトガイダンス」(関連情報、PDFファイル)である。これは、次世代シーケンシングによる試験を利用して、希少遺伝性疾患を診断するためのガイドラインであり、試験の設計、開発、バリデーションに関する推奨事項を示したものだ。
FDAは、生殖細胞系疾患向けの次世代シーケンシングに基づく試験が、医療機器の分類上「クラスIII」または「クラスII」に該当する可能性があるとして、分析の妥当性を保証するためのFDA基準に適合すること、パフォーマンス情報が公的に利用可能で、アクセスできることなどを求めている。
図4 次世代シーケンシングに基づく体外診断向けの臨床的妥当性を支援する公共のヒトゲノム・バリアント・データベース利用 - 利害関係者およびFDAスタッフ向けドラフトガイダンス(クリックで拡大) 出典:FDA「Use of Public Human Genetic Variant Databases to Support Clinical Validity for Next Generation Sequencing (NGS)-Based In Vitro Diagnostics - Draft Guidance for Stakeholders and Food and Drug Administration Staff」(2016年7月8日)
もう1つのガイドライン草案が、「次世代シーケンシング(NGS)に基づく体外診断向けの臨床的妥当性を支援する公開ヒトゲノム・バリアント・データベース利用 - 利害関係者およびFDAスタッフ向けドラフトガイダンス」(関連情報、PDFファイル)である。
FDAは、「プレシジョンメディシン・イニシアチブ」の一環として、プレシジョンメディシンのイノベーションを促進し、公共福祉を保護する規制構造を支援することを目的とした高品質のデータベースの開発を進めている。その代表例が、公開ヒトゲノム・バリアント・データベースであり、後者のガイドライン草案は、試験開発者が次世代シーケンシングに基づく体外診断機器の承認申請に利用する際の留意点を整理した内容になっている。
公開ゲノム・データベースから引用したデータやアサーションが、ゲノム試験の結果を正確に翻訳したものであることを保証するための臨床的エビデンスとして利用されることになるので、データベース品質の維持と適正なデータ利用プロセスの確立は、規制当局、機器メーカー、医療機関のいずれにとっても優先課題だ。
制度的仕組みづくりが、日本発テーラーメイド医療の課題に
日本では、国立がん研究センターが、次世代シーケンサーを活用して、がんの遺伝子情報を網羅的に解析し、分子標的薬の開発につなげるべく、先進的な臨床研究に取組んでいる(関連情報)。また、先行する米国のIllumina(イルミナ)や英国のOxford Nanopore Technologies(オックスフォード・ナノポア・テクノロジーズ)に対抗して、大阪大学発ベンチャーのクオンタムバイオシステムズが独自方式の次世代シーケンサーを開発するなど(関連情報)産学連携の動きも見られる。
ただし、「プレシジョンメディシン」の臨床適用に欠かせない法規制/ガイドライン類の整備に関しては、個人情報保護対策も含めて、日本と米国の間の差が広がりつつある。いわゆる「デバイスラグ」以外のラグをどう埋めていくかが、日本発テーラーメイド医療の成否を握る鍵となっている。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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