マスコミが言う「トヨタ生産方式は重大災害に弱い」は本当なのか:鈴村道場(2)(5/5 ページ)
トヨタ生産方式の達人・鈴村尚久氏による連載コラム「鈴村道場」。今回は、重大災害による工場停止をテーマに、製造業が重大災害に対してどう取り組むべきかについて解説する。
3)仕入先管理の強化と異常値管理はアバウトでも頻度を高くする
自動車では外製比率は7割、家電はそれ以上といわれています。内製以上に管理を強化しないといけないのにそこはおざなりのまま。災害時に物の供給がコントロールできないのは当り前のことです。
また世の中では、「管理」というと全てについて全数管理を行う必要があると思われています。しかし、私はそれは正しくないと思います。むしろ異常値管理を行うべきで、アバウトでよいからレスポンス良く、その都度の対応を行うことが大切です。
例えば、カウボーイは4〜5人でテキサスからシカゴに何百頭もの牛を運びます。まず1人が先頭の牛を引っ張っていく。残りの何百頭は先頭の牛を見てついていく(牛をひもでつなげていないのです)。たまに好奇心旺盛な牛が隊列から外れると残りのカウボーイがかけ付けて隊列に戻す。正常なうちは何もせず、異常が発生したら近くにいる人がすぐに対処する。これが異常値管理のあるべき姿です。これを全数管理すると、何百頭の全部の牛の鼻輪にひもを付けて管理できる数に分担して運ぶやり方となります。これでは4〜5人で運ぶことは不可能でしょう。
これを物の輸送に適用すると、ICタグは別に付けなくても良く、早く確実に輸送できる手段を確立すれば良いのです。トラブルはある確率で起きるかもしれませんが、その時に列車がスタートする前に異常が分かれば対処できます。その列車がスタートしてからでも、別の便で追いかければ使用する段階までに間に合うでしょう。実際にトレースシステムを使うのは、本当にその物が必要になった時のはずです。その時には物は届いてないので間に合いません。
逆に、異常が起きたときに自律的に異常を申告してくれて、リカバリーショットを自律的に打ってくれるような仕組みをビルトインしておけば、トレースシステムなど不要です。
まとめ
今回の「重大災害による工場停止について」をまとめますと、重大災害発生について工場が一時的に停止することは「悪いことではなく、逆に健全であることの証明」なのです。被災地では人命がまず優先です。ただし、代替手段採用による生産復旧を、その次に迅速に行う必要があります。そのために複社購買の体制を確立し、消費地の近くで在庫を極小化して生産&供給する体制をあらかじめ作っておくのがあるべき姿なのです。管理面については、仕入先のモノづくりの管理を定期的に確認指導し、異常値管理はアバウトでも高頻度&タイムリーに行うべきです。
筆者紹介
エフ・ピー・エム研究所 所長
鈴村尚久(すずむら なおひさ)
1976年3月京都大学法学部卒業。1976年4月トヨタ自動車入社。退社後1999年8月にエフ・ピー・エム研究所を設立。トヨタ生産方式のコンサルタントとして、はくばく、ピップフジモト、パナソニック、マルヨシセンターなど多くの企業の生産改善を手掛ける。著書に『トヨタ生産方式の逆襲』(文春新書)。父・鈴村喜久男氏(故人)は「トヨタ生産方式」の生みの親である大野耐一氏の側近として知られる
筆者紹介
株式会社アムイ 代表取締役
山田 浩貢(やまだ ひろつぐ)
NTTデータ東海にて1990年代前半より製造業における生産管理パッケージシステムの企画開発・ユーザー適用および大手自動車部品メーカーを中心とした生産系業務改革、原価企画・原価管理システム構築のプロジェクトマネージメントに従事。2013年に株式会社アムイを設立し大手から中堅中小製造業の業務改革、業務改善に伴うIT推進コンサルティングを手掛けている。「現場目線でのものづくり強化と経営効率向上にITを生かす」活動を展開中。
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