マスコミが言う「トヨタ生産方式は重大災害に弱い」は本当なのか:鈴村道場(2)(4/5 ページ)
トヨタ生産方式の達人・鈴村尚久氏による連載コラム「鈴村道場」。今回は、重大災害による工場停止をテーマに、製造業が重大災害に対してどう取り組むべきかについて解説する。
2)在庫は極力減らす
1)で代替生産による調達が可能となっていれば、余分な在庫は持つ必要はありません。
ただし、在庫ゼロにしなければならないということではありません。お客さまを待たせることは機会損失になりますので、在庫を極小化する努力をするということです。
「必要なときに、必要なものを、必要なタイミングで供給できる」ことがあるべき姿です。今では多品種少量生産が当たり前ですが、需要を整理すると、大抵の商品は繰り返し生産が必要なものと年に数回しか出ないものに分かれます。
年に数回しか出ないものはロングテールと一般的に呼んでいます。よくあるのが繰り返し生産必要なものとロングテールを同じ設備を使って生産しています。そのために、購入する設備は高スペックになりがちです。設備の費用は能力が高くなればなるほど、指数曲線を描き高くなります。例えばスーパーカーは時速300km出ます。軽自動車の最高時速が120kmとするとその能力はスーパーカーの40%ですが、かと言って価格がスーパーカーの40%にはなりません。
その高い設備にロングテールまで生産させようとするために、段替えを惜しんで少量品の在庫を過度に抱えたり、逆に段替えばかりしたりして稼働率を落とすなどのおかしな現象を招いています。
実は、ロングテールは色々な工夫をして少量もしくは1個で作る工夫をすればよいのです。極端な例かも知れませんが、樹脂成型であれば3Dプリンタを活用する、といった全く違う発想で考えるとよいでしょう。材料の変更によって材料コストが10%程度しか変わらないのであれば、極少量品については採用すべきです。これについてもまたの機会に解説させて頂きます。
少量ずつ生産しようとすると段替えが多く発生します。段替えにかかる時間および段替えによって発生する材料の廃棄を段替えロスといいますが、段替えロスを減らす工夫も必要です。例えば樹脂成型の場合は、段替えで材質を変えると材料が混ざってしまうので、材料の廃棄の無駄が多く発生します。金型を変える時間よりもこちらのロスの方が金額的には大きいのです。従って、機械別に同じ材質の材料から作る品番をそろえるなどの工夫をして、金型の交換のみのロスにする方法をとるとよいでしょう。そのために材質は共通化するといった取り組みも併せて行う必要があります。
段取りには、誤差、公差を賢く使います。生産現場では大抵材料をきちんと計測していますが、計測には時間がかかります。良くある例ですが、食品で何gといっても997gとか1005g必要といった場合、1kgの袋からしっかり電子秤で計量する必要があるのでしょうか? これは誤差、公差の範囲になることが多いのです。実際に食べてみると誰も区別できません。
それであれば、1kgの1袋をそのまま投入すればよいのです。せめて何gでなく、できるだけマスを使って擦り切り1杯にすべきです。
日本では、何でも匠の世界といって、難しいことを超人的に道具を使わずに行うことを優遇する傾向にあります。米国人はそんなことはせず、すぐにマニュアルと道具により誰でもできるようにする傾向があります。日本人もその点は米国の文化に学ぶべきです。
これが一番重要ですが、基本は消費者の近くで生産することです。食の世界で言われているフードマイレージに相通ずる所があります。できる限り消費者の近くで小まめに生産して供給することで、リードタイムを短くし、輸送コストと在庫を減らすのがあるべき姿なのです。
現実に使用されている海外コンテナ輸送に利用する北米大陸横断のコンテナ列車はその全長が実に3kmもあるのです。これが何時間もかけて移動し大量の物を運んでいます。すごい量の物資が日本や東南アジアから運ばれているのだなあと驚きました。
また私は以前、米国西海岸で1隻の自動車運搬船から5000台の輸出した日本車が降りてくるのを見たとき、これを現地の米国人が日本の侵略だと思ってもおかしくないと感じました。映画で見た、エイリアンが宇宙船から降りてくる光景とダブったのです。そんなことをしなくても米国の西海岸や東海岸で生産をすれば良いのです。
メキシコなど税制の優遇があれば、それを活用するのは悪くありません。ですが、それも1カ所で生産するのでなく、できるだけ消費地に近い場所の西、東と分散するべきです。
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