人工知能は製造現場でどう役に立つのか:製造業IoT(4/4 ページ)
人間の知的活動を代替するといわれる人工知能が大きな注目を集めている。ただ、製造現場で「使える」人工知能は、一般的に言われているような大規模演算が必要なものではない。「使える人工知能」に向けていち早く実現へと踏み出しているファナックとPFNの取り組みを紹介する。
予防保全などにも活用
これらの機械学習に加えて、ディープラーニングを使って異常を検知し、ダウンタイム低減を目指す予防保全技術の開発も進めている。同技術は、正常時に得られたデータのみを用意しておけば、あとは、ディープラーニングにより異常判定モデルを学習できるという技術だ。この学習した異常判定モデルにより、計測したデータが異常かどうかを判断する。従来は異常発生時に担当者がさまざまな検査を行い、ようやく異常および異常の発生した場所が分かるというもので、異常場所が分からないということがダウンタイムを伸ばしていた。
同技術のポイントが、正常時のデータから学習ができるという点である。従来は典型的な異常のパターンなどを人手で行わなければ異常パターンを作成できないケースなどもあった。しかし、通常運転時のデータをそのまま読み込むだけで、異常時のパターンを作ることができ、学習のために必要な時間を減らすことができる。
PFNではさらにこれを進め、故障する40日前にアラートを出すというような予防保全の仕組みなどの開発も進めている。従来手法では検出が遅かった異常を、一定期間前に発見できるようにしたことで、計画保全などで対応可能とする。西川氏は「IoTデバイスの特徴はセンシングだけでなく、リモートでのコントロールアクションを実現できることが特徴だ。コントロールアクションと組み合わせることで自動で状況に合わせた最適な行動をとらせることができる」と述べている。
既存の業務プロセスを変更しない
PFNでは現在「産業用ロボットに関してはファナックと排他的な関係で共同開発を進めている。その代わり深くまで入り込み、実践的な形のものをより早く開発できるようにしている」(西川氏)としている。
これらのファナックとPFNの製造現場での人工知能活用が特徴的なのが、製造現場の業務プロセスをそれほど大きく変えることがなく、さらに現場の負担を軽減した形で導入できるようにしている点である。ファナックでは「既に工場に導入しているファナックの製造関連機器でも少ない投資や負担で使用できるようにすることを目指している」(ファナック ロボット事業本部長 稲葉清典氏)。
製造現場での人工知能活用には総合的にさまざまな事象に回答を出すような大規模な処理はあまり必要がない。またこれらのシステムは学習時間や費用対コストの面で現状では製造現場での使用には見合わない場合が多い。こうしたことを考えると、いかに製造現場のプロセスに落とし込み、機能を限定しても、負担なく製造現場の課題を解決するのかというところがポイントになるだろう。
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