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イノベーションを起こすための「3つのプロセス」“これからのエンジニア”の働き方(6)(2/2 ページ)

前回は“イノベーションを起こす組織と力”についてお話ししました。今回は、派遣エンジニアが実際に就業先で行った事業改革を例に、“現場イノベーション”についてのヒントをお伝えします。

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データを用いて論理的に捉え、本質的問題を特定する

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仮説を裏付けるデータを収集、分析

 営業部門にも協力を得て、まずはどのようなトラブルが発生しているのか、それぞれにどのくらいの工数がかかっているのかを集計します。さらに同業界に派遣されている同じ派遣会社の同僚に話を聞くと、「1つのトラブルで営業が出向くことはほとんどない」「電話で対応できるくらいの単純な作りになっている」などの情報も得られました。また、アンケートを行い、対応方法や困っていることなどもヒアリングしました。過去の顧客アンケートも再度分析。そして技術部門では開発工数を集計し、工数増大、納期遅れの原因となっている部分を特定します。

 これらの検証データを分析すると、ある事実が見えてきました。

 “営業担当の技術知識不足により、技術部門・製品企画に適切なフィードバックが行えておらず、製品には使用頻度の低い機能が搭載されている。それら機能の搭載により不具合が起こりやすくなっており、トラブル対応・開発工数の増大につながっている――。”

 技術力が高いからこそ、「あんなことも」「こんなことも」とハイスペックな製品を開発していましたが、顧客側ではその技術の使用頻度はとても低い。市場ニーズに合致していなかったのです。しかし営業部門はマニュアルに沿って対応するのみで、そのトラブルが何を起因として起きているかまでは分かっておらず、技術部門にフィードバックできていませんでした。

 ハイスペックな製品だからこそ、開発工数もかかる。けれど複雑化してしまっているせいで、製品の動作が不安定になってしまう。競合企業の販管費率などもグラフ化し比較すると、他社に比べて営業利益率が低いことは明確で、これら工数の削減は急務ともいえます。

考えうるソリューションを網羅的に検討し、最善の解決策を提示する

 技術力にも営業力にも自信のあるこの企業にとっては、とても耳の痛い話。一派遣エンジニアがこんなことを提案するというのは前代未聞ですが「派遣エンジニアこそ、過去の成功体験や組織のしがらみにとらわれずに論理的に提案することができるんだ」と、上記課題とともに以下の解決策の提案に踏み切ります。

  • 営業部への技術研修の実施
  • 営業部と製品企画のフィードバックミーティングの定期開催
  • 製品にIoTの技術を用い、リモートメンテナンスの機能を搭載

 “開発・営業工数の削減を提案したい”と打診すると、OA機器会社側は「とても嬉しいけど、今まで散々取り組んできた。もうこれ以上変わることはないよ」とは言いながらも時間をくださいました。

 そして迎えた提案当日。Kの提案を聞いたOA機器会社の担当者は深くため息をついて言いました。「定性的情報とともに、定量的な裏付けもあり、認めざるを得ません」

 そして続けます。「私たちが気付かなかった、当たり前に思い凝り固まっていた文化に、新たな光が差しました。次に進むチャンスをくれてありがとう。ぜひ取り組みましょう!」

 いち早く効果が表れたのは開発の納期遅れ。開発中の製品の仕様を見直し、開発難易度が高くて納期遅れのリスクに見込まれていた機能が不要と判断されました。前プロジェクトと比例して億単位の改善が見込めます。

 成果が出るのに時間はかかるけれど、技術的知識を備えた営業担当のフィードバックは、製品企画の体制を劇的に変えてくれるはずです。

 不要な機能を搭載していない製品は内部もシンプルになり、不具合が起きづらくなります。営業担当はメンテナンスに不要な工数を割かれることがなくなり、新規顧客へのアプローチなど、本来のミッションに専念することができるようになります。たとえトラブルが起きてもリモートでメンテナンス可能です。

 また、開発の納期遅れに技術部が振り回されなくなり、製品企画にもよりクリエイティブに参画できるようになりました。Kによる提案は、この製品と企業にもう一度“イノベーション”をもたらしたのです。

 今までは、技術部門、営業部門ともに自部署の中だけで部分最適ばかりに精を出していました。生産、製造で食べていけた昔の日本だったらそれでいい。けれど今はそうじゃないのです。

 外部の知恵も生かしながら、より柔軟に変化していかねば生き残れません。そして、この提案を受け入れたこの企業には「その度量があった」ということです。

 そう、イノベーションには、論理的思考とコミュニケーション力を持ち、積極的に行動できる人が必要です。そしてそれ以上に、ともに変化することを選べる企業文化が非常に重要になります。これは個人にも言えることです。

 皆さんの属する組織は、変化を選べる組織ですか? そして皆さんは、変化を選べる人ですか?

筆者プロフィル

株式会社VSN VIエキスパート 桑山 和彦(くわやま かずひこ)

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通信機器、情報機器メーカーより株式会社VSNに転職。VSNに入社後はエレクトロニクスエンジニアとして半導体のデジタル回路設計やカメラ用SDK開発業務に携わる。

2013年より“派遣エンジニアがお客さまの問題を発見し、解決する”サービス、「バリューチェーン・イノベーター(以下、VI)」を推進するメンバー「バリューチェーン・イノベーター・プロフェッショナル」に抜擢。ビジネス・ブレークスルー大学・大学院の教授である斎藤顕一氏より問題解決手法の教示を受け、いくつもの問題解決事案に携わる。

現在はVIエキスパートとして、よりハイレベルなサービスの提供に向けての提案活動を牽引する他、社員の育成プログラムの構築〜実施を行う。

株式会社VSN http://www.vsn.co.jp/

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