日本一のイノベーション誕生の背景には○○があった:“これからのエンジニア”の働き方(5)(1/2 ページ)
今まで「イノベーター」に必要な力や、それを伸ばすためのコツについてお話ししてきました。それらが実際の“イノベーション”の場ではどのように生きていたのか、今回は日本で一番有名と言っても過言ではないイノベーション事例、ソニー「ウォークマン」の誕生にフォーカスして実証していきたいと思います。
「再生しかできないのに、売れるわけがない」
「再生しかできないのに、売れるわけがない」――今の若者が聞いたら「?」と疑問に思うかもしれません。ソニーの「ウォークマン」が生まれる前、音楽を聴くのは家庭や車の中に置かれたテープレコーダーが主流でした。つまり、再生だけでなく、録音機能が搭載されていることが“当たり前”だったのです。
当時のソニーの名誉会長、井深大氏もポータブルタイプのテープレコーダーで音楽を楽しんでいました。しかしポータブルと言えども当時流通していたものは重い肩掛けタイプ、海外出張などに携帯するにはとても不向きです。小型のものもありましたが、全てモノラル再生。そこで、録音機能を取っ払って、ステレオ再生機能のみを搭載した小型品を作れないか、と、テープレコーダー事業部に持ちかけます。
それを“二つ返事で”受けたのが、当時テープレコーダー事業部長だった大曽根幸三氏でした。いわば会長の“鶴の一声”でスタートしたプロジェクト。開発チームは、今までの常識とは異なるこの製品、しかもかなりの短納期スケジュールに、反発するどころか笑いを絶やさずに和気あいあいと開発を進めていったそうです。
そしていよいよ発売となりますが、何せ今までの常識とは異なり、「再生」しかできません。周囲からは「録音機能がついていないのに、売れるわけがない」と悲観的な意見が多く寄せられました。量販店でも苦い顔をされながらも、彼らは熱い意志と信念を持ち続けました。
そして発売。最初の1カ月は鳴かず飛ばずだった販売数も、地道な営業活動と人気アイドルの支持もあり、数カ月後には品切れ状態が続くことに。
「絶対に売れない」と言われた再生専用機は、日本だけでなく“世界のウォークマン”となり、“ヘッドフォンステレオ市場”というマーケットをも創り出しました。のちにさらなるイノベーションを起こすiPodも、このソニーの「ウォークマン」を見て作られた、と言われています。
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