日本一のイノベーション誕生の背景には○○があった:“これからのエンジニア”の働き方(5)(2/2 ページ)
今まで「イノベーター」に必要な力や、それを伸ばすためのコツについてお話ししてきました。それらが実際の“イノベーション”の場ではどのように生きていたのか、今回は日本で一番有名と言っても過言ではないイノベーション事例、ソニー「ウォークマン」の誕生にフォーカスして実証していきたいと思います。
決断力、ポジティブさ、過去にとらわれない論理性
この開発ストーリーには、今までお話しした“イノベーションを起こすための要素”がふんだんに詰まっています。ウォークマンに今までになかった最先端技術が使われていたかというと、そうではありません。むしろ既存の金型がそのまま使われていました。このイノベーションを実現させたのは、彼らの“考え方”と“組織の在り方”なのです。
- 「録音再生機」という過去の成功や、世間の常識にとらわれない
- 細かなことは気にせず、まず「えいやっ」と決断する
- 決断を素直に受け止める
- できない理由を探すのではなく、できる方法をポジティブに考える
- 厳しい状況でも、仲間を励まし、陽気な空気を作り続ける
- トップが新たなアイデアを歓迎し、熱意を持って進める
先例や過去の成功、常識にとらわれていたら、イノベーションは起こせません。先例を無視して、「そもそもこれって必要?」と問題提起できる論理的思考力、失敗を恐れず、部下や同僚を信頼し励まし、ポジティブな姿勢で取り組むコミュニケーション力、そして、トップの決断。これらの何かが欠けているが故に、結局しぼんでいくアイデアやアクションが、日本中にたくさんあるのではないでしょうか。
それは製品開発に限りません。仕事のプロセス改革、組織変革などにおいても、「今までこうだったから」「どうせ変わらないから」と諦められてきた事例が皆さんの周りにもいくつもあるはずです。この状況を変え、イノベーションを起こし世界を動かしていくのが、「これからのエンジニア」なのです。
「簡単に変わらない」ではなく、「変える」ために動く
そんな簡単にできるものじゃない、組織は簡単に変わらない。そう思う人もたくさんいるでしょうし、私も数年前までは組織の改革になんてこれっぽっちも興味はありませんでした。モノづくりサイクルの中の歯車として、自分の技術を磨くこと、目の前の製品をより高品質に仕上げることに注力していました。そこにイノベーションなど、ありませんでした。メーカーで働くエンジニアから派遣エンジニアになったのも、ずっと技術の第一線でエンジニアリングを続けたかったからです。
しかし、“派遣”という働き方が私の視点を変えました。お客さまに“派遣”されてさまざまな企業で業務をしていると、第三者視点でいろいろなものが見えてきます。その企業独自の文化に起因する課題や、部署間の軋轢(あつれき)などなど。そういった中で"いかにいいものを作れるか"を考えると、それらをどう解決できるかが自分の中で重要になってきました。結果、ただ自分の技術力向上に没頭していた私が、組織をつなぐ「コミュニケーション力」を身につけ、問題解決のための「論理的思考力」を身に付けることになります。
私自身は“働き方”の変化によりそれらの力を身に付けることができましたが、もちろん自ら意識し動き続けることで自分自身に、そして組織に“変革”をもたらすことが可能です。皆さんが所属している組織は「イノベーションを起こせる組織」ですか?ぜひこの事例とともに振り返ってみてください。そして、自分から何を変えられるか、考えて実行してみてください。
筆者プロフィル
株式会社VSN VIエキスパート 桑山 和彦(くわやま かずひこ)
通信機器、情報機器メーカーより株式会社VSNに転職。VSNに入社後はエレクトロニクスエンジニアとして半導体のデジタル回路設計やカメラ用SDK開発業務に携わる。
2013年より“派遣エンジニアがお客さまの問題を発見し、解決する”サービス、「バリューチェーン・イノベーター(以下、VI)」を推進するメンバー「バリューチェーン・イノベーター・プロフェッショナル」に抜擢。ビジネス・ブレークスルー大学・大学院の教授である斎藤顕一氏より問題解決手法の教示を受け、いくつもの問題解決事案に携わる。
現在はVIエキスパートとして、よりハイレベルなサービスの提供に向けての提案活動を牽引する他、社員の育成プログラムの構築〜実施を行う。
株式会社VSN http://www.vsn.co.jp/
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